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On the Production
by 井口健二
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■名前のない女たち、半次郎、超強台風、ヌードの夜、蛮幽鬼、武士の家計簿、玄牝+製作ニュース・他
の剣戟シーンには目を見張った。特に堺の、いつも笑顔のま
まの殺陣と言うのも、表情が変えられないのはかなりの苦労
が有ったと思われる。それがゲキ×シネでは大画面のアップ
で観られるのだ。
ただこの種の演劇では常にあることだが、挿入されるアドリ
ブの時事ネタというのが撮影から数ヶ月も経つとかなりきつ
くなるもので、僕はそこで興を削がれた。ただし同じ客席に
いた演劇ファンらしい人たちには受けていたようで、この辺
をどう判断するか…。
少なくとも記録された映像はこの先の何10年も上映される訳
で、その歴史的価値をどのように捉えるかも難しい問題にな
りそうだ。

『武士の家計簿』
幕末から明治維新、そして新政府成立の混乱期にあって、加
賀藩御算用者だった猪山家に残された詳細な家計簿を基に、
当時の下級武士の生活を再現した歴史ドラマ。
御算用者とは、藩の会計を管理する主計官のような役職。百
万石と言われた加賀藩ではその数約150人が日々算盤を片手
にその任に当たっていた。しかし刀の代りに算盤を手にする
その職は、武士の間ではどちらかと言うと蔑まれる役職だっ
たようだ。
そんな中で猪山家は、代々御算用者を務め、特に幕末期には
江戸屋敷の御算用者も兼任しての功績から70石の知行(領地)
を拝領するなど、それなりの家柄を保っていた。しかし武士
の体面や天保の大飢饉などの影響で猪山家の財政は逼迫。つ
いには年収の2倍の借財を持つにいたってしまう。しかもそ
の利息は年1割8分と現代のサラ金並だった。
という事態に猪山家では家族会議を開き、家財を売って借財
を減らすことを決め、武士の体面を捨てて財政の立直しを図
る。そして詳細な入拂帳(家計簿)が付けられることになる。
その家計簿は天保年間から明治中期までが現存しているそう
だ。
そんな家計簿を基に再現された下級武士の生活。そこには、
苦しい中でも暖かい彼らの生活、無駄を省く工夫などが見え
てくる。
という物語が、磯田道史の原作から2008年『GOTH』など
の柏田道夫の脚色、森田芳光監督により映画化されている。
出演は、堺雅人、仲間由紀恵、松坂慶子、西村雅彦、草笛光
子、中村雅俊。
物語の基になっているのは家計簿だけだが、猪山家は明治政
府でも海軍の主計監を務めるなど混乱期を堅実に生き抜いた
一家のようだ。そんな一家の生活ぶりが丁寧に再現されてい
る。
また映画では、加賀友禅屋加賀蒔絵、金沢漆器、九谷焼など
加賀藩の伝統工芸品が画面に彩りを添え、特に友禅染めの川
洗いのシーンなどは美しく描かれていた。またその友禅の技
が物語のキーの一つになっているのも素敵だった。
それに五珠算盤が使われている様子や、鶴亀算や円周算など
の算術を記した書物がチラリと写るのも楽しめた。

『玄牝』
2007年のカンヌ国際映画祭に出品された『殯の森』がパルム
ドールに次ぐグランプリを獲得した河瀬直美監督による出産
をテーマにしたドキュメンタリー。河瀬監督には2006年にも
自らの出産をテーマにした『垂乳女』という作品があり、そ
れに続く作品のようだ。
愛知県にある吉村医院という産院にカメラを持ち込み、そこ
で出産の準備をする女性たちの姿が記録されている。その中
には、夫が行方不明になっているという女性や、定期検診で
胎児の心音が消えていたという女性、出産予定日を過ぎた女
性なども登場する。
僕自身が家内が妊娠したときにはラマーズ法による自然分娩
を採用し、お産の学校に同行して学んだり、上の子の時には
出産の立ち会いも経験した者で、その点では興味を持って作
品を鑑賞した。
その吉村病院では、自然分娩を前提として、妊婦には薪割り
や壁拭きなどの古典労働を奨励し、その力によって自然な出
産が行われるように指導しているとのことだ。その一方で妊
婦同士の意見交換なども行われる。そんな様子が撮影されて
いる。
ただし、上記のように出産について学んだ目から見ると、出
産で痛みを訴える妊婦になぜ合理的な無痛のための呼吸法を

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08月08日(日)
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