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On the Production
by 井口健二
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■第22回東京国際映画祭・コンペティション以外(1)
そして、その立入禁止で厳重に警備されているという入り江
で行われるイルカ屠殺の模様を撮影するために、岩に偽装し
た隠しカメラや小型飛行船カメラの製作など本作のスタッフ
たちによる大作戦が繰り広げられる。
その一方で、国際捕鯨委員会(IWC)での日本政府の暗躍
や、日本に支配され掛かっていると主張されるIWCの会議
場へ直接抗議に出かける本作の制作者たちの姿などが写し出
される。さらに売られているイルカ肉への水銀蓄積の問題な
ども指摘される。
ただまあIWCでの日本政府の多数派工作については、以前
にアメリカが反捕鯨の立場で行ったことを日本が踏襲してい
るだけなのに、そのアメリカが行ったことには口を噤んだま
まだし。最初にも書いたようにアメリカでの反イルカショウ
の動きなどがほとんど紹介されないのは、何とも恣意的な作
品にも見えてしまうところだ。
なお本作に関しては、出品の申し込みに対して当初は作品の
出来などを判断して却下されていたものだが、その後にアメ
リカなどで抗議騒動が起こり、急遽追加上映が決められたも
の。内容的には大した作品ではないが、話題性はあったのだ
ろうか。

『エリックを探して』(WORLD CINEMA部門)
2005年4月に『やさしくキスをして』などを紹介しているイ
ギリスのケン・ローチ監督による最新作。
プレミアリーグのマンチェスター・ユナイテッド(マンU)
でキングと呼ばれたサッカー選手エリック・カントナが自ら
出演し、カントナは本作の製作総指揮も務めていたようだ。
主人公はサッカーフリークの郵便配達。離婚や交通事故など
が重なって仕事にも覇気がなくなっている。しかも入院中に
彼の自宅には、前妻の連れ子たちが有象無象の仲間を引き入
れていて、何やら怪しい雰囲気にもなっている。
そんな中で、彼の仲間たちが素人セラピーを実行し、そこで
自分のカリスマがエリック・カントナであることに気づいた
主人公の前に、何とカントナ本人が現れる。そしてそのアド
ヴァイスで徐々に人生を変え始めるが…
ウッディ・アレン監督『ボギー!俺も男だ』のケン・ローチ
版とでも言えるのかな。『やさしく…』でもサッカーファン
だということは明確に判っていた監督だが、今回は選手本人
の出演も得て、華麗なゴールシーンの記録映像もふんだんに
取り込んだ作品になっている。
とは言え、深刻なイギリス社会の状況は、本作でも如実に描
かれているものではあるのだが…
元々サッカーチームのサポーターでもある自分としては、華
麗なカントナのプレーに酔い痴れることの出来る作品でもあ
るし、カントナが折々に放つ含蓄のある言葉には、一々頷い
てしまう作品でもあった。
でもまあ、それがサッカーが文化として根付いていない日本
では中々理解されないところもあるのだが、そこはサッカー
ファンでなくても理解できる夫婦や家族の問題もしっかりと
描かれているから、そういう面からでもアピールして欲しい
作品だ。
そしてカントナの華麗なプレーの連続に、映画の観客がサッ
カーも観たくなってくれると嬉しいものだが。

『麦田』(アジアの風部門)
2003年に中井貴一が主演した『天地英雄』などを手掛けてい
る中国の監督ハー・ピンによる新作。
秦の軍勢が魏を打ち破り趙を脅かしている時代の物語。とあ
る町を治めていた武将が、秦の軍勢が迫ると聞くや町の12歳
以上の男子の全員を率いて戦地へと赴いてしまう。それは麦
の穂が色づき始める頃のことだった。
そして女子供だけが残された町は、武将の妻とその妻が信じ
る巫女によって治められていたが、麦の刈り取り時期が近づ
いても男たちが帰還する様子はない。そんなとき2人の男が
町にやってくる。
実は、その2人の男は秦軍の脱走兵だったが、趙の女の前で
はそんなことは口が裂けても言えない。そこで口から出任せ
に趙の軍勢が秦を打ち破ったと語り始めるのだが…やがて真
実が女たちに知らされるときが来る。
要塞のような町を背景に広がる麦田を舞台に、真の男の勇気

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10月20日(火)
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