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On the Production
by 井口健二
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■キング・コーン、チョコレート・ファイター、台湾人生、17アゲイン、ラスト・ブラッド、ロシア革命アニメーション、スティル・アライヴ
旧ソ連のアニメーションというと1957年製作の『雪の女王』
や、オリジナル版は1947年発表の『イワンの仔馬』(昔は違
う名前だった)が、芸術性の高さや日本のアニメーターたち
に与えた影響の大きさなどで有名なものだ。
しかしここに集められた作品は、旧ソ連のプロパガンダ用に
製作されたもので、その内容の陳腐さなどでは正に珍品と言
えるものばかりだ。
上映されるのは、Aプログラムが『ソヴィエトのおもちゃ』
(1924)、『用心を怠るな』(1927)、『ファシストの軍靴
に祖国を踏ませるな』(1941)、『百万長者』(1967)、
『予言者と教訓』(1967)、『狼に気をつけろ』(1970)、
『電化を進めよ』(1972)、『射撃場』(1979)の8本。
Bプログラムは、『惑星間革命』(1924)、『レーニンのキ
ノ・プラウダ』(1924)、『勝利に向かって』(1939)、
『映画サーカス』(1942)、『ツイスター氏』(1963)、
『株主』(1963)、『生かされない教訓』(1971)、『前進
せよ、今がその時だ』(1977)の8本。
という16作品だが、どの作品もブルジョアや資本主義への批
判というより青臭い非難のアジテーションばかりで、正直に
言ってアニメーションのレヴェルも低く、特に観て何かを得
られるようなものでもない。
特に、Bプログラムで上映の『惑星間革命』には、題名から
ちょっと期待もしたのだったが、内容は革命を逃れて火星に
逃亡したブルジョワジーを、革命戦士たちが追い掛けて行っ
てやっつけるというだけのもので、何とも低レヴェルの発想
と言うか、あまり頭の良い作品には見えなかった。
その他では、Aプログラム『射撃場』とBプログラム『映画
サーカス』がそれなりに面白くはあったが、これらはプロパ
ガンダというより風刺劇という感じで、それも、だから…?
と言うくらいの程度のものだ。
いまさら失敗に終った政治体制をとやかく言っても始まらな
いが、結局こういう部分から考えの甘さと言うか青臭さが観
えてしまうのも、体制の未熟さを感じてしまうところだ。所
詮は机上の空論でしかなかったものなのだろう。
戦時中のプロパガンダで言えば、日本でも『桃太郎の海鷲』
や、アメリカではディズニーが戦争協力映画を作ったことは
知られているが、政治体制のプロパガンダが重なるとこうも
浅薄な物になってしまうのか、その原因は上映時間の短さだ
けではないように思えた。
もう少しは、共産主義の明るい未来を描いた作品でもないの
かと期待して観に行ったのだが、それも期待外れの作品ばか
りだった。
僕自身、制度としての共産主義は否定するものではないが、
どんなに理想的な制度でも、それを実行する人間が駄目だと
うまくは行かない。今回上映される作品群を見ていると、こ
んなプロパガンダを押しつける連中では、うまく行かなくて
当然とも思わせた。
それは結局1世紀も持たずに制度を潰してしまったロシアの
現実でもある訳だ。そんなことも理解できる作品群だった。

『スティル・アライヴ』“Still Alive”
『デカローグ』や『トリコロール』3部作などの作品を残し
て、1996年に54歳の若さで急逝したポーランドの映画監督ク
シシュトフ・キェシロフスキの業績を称えて2005年に製作さ
れたドキュメンタリー作品。
実は、僕は上記の作品は観ていないのだが、彼の遺稿脚本を
映画化したトム・ティクヴァ監督の『ヘブン』(2002年12月
に紹介)と、ダニス・タノヴィッチ監督の『美しき運命の傷
痕』(2005年12月に紹介)は、どちらも見事なドラマとして
感銘を受けたものだ。
その脚本を遺したキェシロフスキは、最初はドキュメンタリ
ーで頭角を現すが、フィルムに写されたものが必ずしも真実
ではないと気付き、あえてフィクションにすることで人間の
心の奥底にあるものを描き出そうと考える。そして次々に名
作を生み出して行く。
そんな監督の作品を網羅して、生前の監督自身の声も交えな
がら、監督と親交のあった映画監督ヴィム・ヴェンダース、
主演女優のジュリエット・ビノシュ。さらに作曲家や脚本の

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04月05日(日)
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