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On the Production
by 井口健二
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■ボルベール、ラブソングができるまで、石の微笑、チャーリーとパパの飛行機、ルネッサンス、暗黒街の男たち、輝ける女たち
フランスの暗黒街を舞台に、アラブ系やイタリア系などの組
織が交錯する中、男たちのドラマが展開する。
フィルム・ノアールというのはフランス映画の伝統的なジャ
ンルだったが、最近では香港などを舞台にしたアジア系のノ
アールが台頭してきた。でもそこには、アンディ・ラウも良
いけれど、やはりアラン・ドロンがいて欲しかった訳で、そ
の跡を継ぐのが本作のブノア・マジメルのようだ。
マジメルは『石の微笑』にも出ているが、実は映画を見てい
る間、僕は全然それに気付かなかった。確かにスチールを見
比べると同じ人物なのだが、そのくらい見事に演じ分けてい
たという感じのものだ。
物語は、何かの刑期を終え出獄した若者が、暗黒街のボスに
取り入ってその道を歩み出すところから始まる。そして多少
の事件は起きるものの、それなりに順調にことは進んで行く
のだが…。ある日些細なことでボスが逮捕され、一気に物事
が流動化する。
こうして、血で血を洗う抗争が勃発するのだが、これがかな
り強烈な演出で描かれる。
正直に言ってフィルム・ノアールをそれほど見ているわけで
はないが、昔の映画ではここまで強烈な描写は出来なかった
だろうと思われる作品ではある。それほどにどぎついと言う
か、これが現代なのだろうという感じはしてしまう作品だ。
監督は、猟奇的な犯罪映画などを撮ってきたようだが、ブラ
イアン・デ・パルマを敬愛しているということで、なるほど
なという感じはしてしまう。ただ、デ・パルマのようにトリ
ッキーな感じではなく、もっとストレートに物事を追求する
人のようだ。
マジメルの他には、『プロヴァンス物語』などのフィリップ
・コベールがボス役で登場して重厚な演技で他を圧倒する。
作品的にはコベールが主演だと思うが、宣伝はマジメル中心
でというところだろう。でも彼らの演技はまた見たいと思え
るものだ。
『輝ける女たち』“Le Heros de la Famille”
カトリーヌ・ドヌーヴ、エマニュエル・ベアール、ミュウミ
ュウの共演で、ニースの街に建つ「青いオウム」というキャ
バレーを舞台にした愛憎ドラマ。
主人公のニッキー(ジェラール・ランヴァン)は、昔はテレ
ビのレギュラー番組も持っていたマジシャン。幼い頃にアル
ジェリアから亡命し、「青いオウム」のオーナー(クロード
・ブラッスール)を父親のように思って来た。
その彼には、今は疎遠の元妻アリス(ドヌーヴ)との間にニ
ノという息子がおり、一方、幼馴染みで芸人仲間のシモーヌ
(ミュウミュウ)とは一夜の情事で生まれたマリアンヌとい
う娘がいた。そして今は「青いオウム」でのショウが唯一の
仕事だったが…突然そのオーナーが死去してしまう。
この事態に主人公は、店は息子同然の自分が引き継ぐものと
思うのだが、オーナーの遺言は彼ではなく、ニノとマリアン
ヌに店を譲るというものだった。しかも堅気の2人は店を閉
めると言い出す。そこにアリスも現れて、主人公は二進も三
進も行かなくなってしまう。
人生の大転換期、しかも過去には経緯が五万とある。そんな
過去を徐々に紐解きながら、登場人物たちは自らの進むべき
道を見付けて行く。
もちろん描かれる世界がかなり特殊だから、一概に参考にな
るものではないが、でも人は常に前に進んでいなければなら
ないという人生観は見事に描かれている。
キャバレーのショウシーンなども、華やかに再現されている
し、歌姫を演じたベアールが吹き替えなしで歌う名曲の数々
も楽しめる。なおべアールは、『8人の女たち』でも歌声を
披露しているが、歌手という役柄で本格的に歌うのは本作が
初めてだそうだ。
ドヌーヴのちょっと嫌みな元妻の演技も迫力満点で面白かっ
たし、ミュウミュウのちょっと引き気味の素朴な演技も素晴
らしかった。因にミュウミュウは、フランス映画のセザール
賞主演賞の受賞を1回辞退した他、9回のノミネートを誇っ
ている人だ。
なお、今回紹介した『石の微笑』、『チャーリーとパパの飛
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02月28日(水)
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