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On the Production
by 井口健二
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■プロジェクト・サイレンス、ミゼリコルディア、風たちの学校、初級演技レッスン、ジュ・テーム、ジュ・テーム
CMディレクターとして数々の賞を受賞し、2020年の長編デ
ビュー作『写真の女』で世界40冠を達成したという串田壮史
監督が、埼玉県/SKIPシティ彩の国ビジュアルプラザの製作
で発表したかなりファンタスティックな要素のある作品。
物語は黒衣の男性が廃工場を借りて題名表記の会場を開くと
ころから始まる。そこにオーディションを目指す少年が現れ
てレッスンが開始されるが、それは少年の記憶を過去へと辿
る不思議な体験に繋がっていた。
さらに登場人物はもう1人。少年の通う学校では「演劇教育
の必須科目化」の是非を問う教師へのアンケートが行われて
おり、少年を担任する女性教師が「初級演技レッスン」の会
場にやって来る。
そしてレッスンを受けた彼女もまた自らの記憶を辿る体験に
導かれるが…。
出演は2022年5月紹介『ビリーバーズ』などの毎熊克哉と、
2022年7月紹介『夜明けまでバス停で』などの大西礼芳。そ
れに2008年生まれで2023年『雑魚どもよ、大志を抱け!』な
どの岩田泰。
物語は作中でも言及される中国戦国時代に荘子が著した「胡
蝶の夢」をモティーフとしており、夢と現実の狭間が巧みに
描かれた作品となっている。そしてそこに登場人物らの過去
に繋がる物語が展開される。
しかもその物語の展開が上手い。これはファンタシーという
より夢という科学を応用したSFとも呼べる作品で、それは
SFファンの自分にも納得できたし、プロパー外からこんな
作品が提示されたことに驚きも感じられたものだ。
脚本・編集も手掛けた串田監督にどれほどの認識があったか
は判らないが、新年早々からこれは今年のSF映画の収穫と
言える作品に出合えた思いがした。そんな気分にもさせてく
れる作品だった。
因に監督は2023年発表の第2作では「Jホラー第3波の幕開
け」とも評されたそうだが、ホラー・SF映画界に新たな才
能が誕生したのかもしれない。監督の次回作にも大いに期待
を持ちたいものだ。
公開は2月22日より、東京地区は渋谷ユーロスペース、埼玉
県はMOVIX 川口他にて全国順次ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社インターフィルムの招待で試写
を観て投稿するものです。
『ジュ・テーム、ジュ・テーム』“Je t'aime, je t'aime”
ヌーヴェル・ヴァーグの巨匠の1人とされるアラン・レネ監
督が1968年に発表し、SF映画史を語る上で必ずと言ってい
い程登場する作品が日本では劇場初公開されることになり、
試写会が行われた。
物語は、自殺を図ったものの一命をとりとめた主人公がとあ
る研究に誘われる。それは薬物を使ってタイムトラヴェルを
行うという研究だったが、動物実験では過去に到達したか否
か判明せず。さらに生体爆発の危険もあった。
しかし元々自殺志願者だった主人公は死の危険を顧みず、そ
の実験の被験者となる。そして実験が始まるが、それはちょ
うど1年前のバカンスの海辺で彼女と愛し合った記憶の再現
だった。
ところが実験が始まると彼の身体は同じ時点を繰り返し訪れ
ることになり、その都度異なる出来事が起こり始める。果た
してそれは実験失敗の前兆なのか…。
出演はフランソワ・トリュフォー監督の『黒衣の花嫁』など
生涯 100本以上の映画舞台で活躍したクロード・リシュと、
フレッド・ジンネマン監督『ジャッカルの日』などハリウッ
ド映画でも活躍したオルガ・ジョルジュ=ピコ。
タイムトラヴェル・テーマということでSF映画史に名を残
し、以後の多くの作品にも影響を及ぼした作品だが、現状で
観るとタイムトラヴェルはギミックとして使われているだけ
で、監督の主眼は人間模様の方に置かれている。
まあ往時の状況はこれをSF映画と呼びたくなるほど作品に
飢えていたものだが、実際に監督自身もインタヴューでSF
映画ではないと明言しているもので、今更これをSF映画で
評価するのは失礼かもしれない。
でもその時代にこれを描いたというのは、それなりにSFへ
の理解もあったとは言えるのだろう。そういう敬意は表して
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01月19日(日)
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