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On the Production
by 井口健二
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■ロスト・フライト、リアリティ、他人と一緒に住むということ、隣人X疑惑の彼女
人が最初に触れたものに擬態する能力を持つことから、日本
では未だにその賛否が分かれているという状況。
そんな状況の中で週刊誌記者の主人公は、擬態した異星人と
疑われる人物のリストを入手、その実態を調べる取材を開始
する。しかしある女性に接近した記者は彼女に恋心を抱いて
しまう。そして彼が掴み取った真実とは…。
他の出演者は台湾で金鍾賞受賞の黃姵嘉。さらに野村周平、
川瀬陽太、嶋田久作、原日出子、バカリズム、洒向芳。また
主題歌を2022年11月紹介『恋のいばら』の主題歌も手掛けた
childspotが担当している。
物語の概要を読むと、SF好きとしてはジャック・フィニイ
が1954年に発表した小説『盗まれた街』を思い出さずにいら
れない。1956年ドン・シーゲル監督の映画化でも知られるこ
の作品では、正に人間に擬態する異星人が描かれていた。
ただしその作品が人類に取って代わろうとする敵対的な侵略
を描いていたのに対して、本作は必ずしもそのようなものを
描いているのではない。とは言うもののそれに恐怖心を抱く
人間を描いているのは共通するテーマではある。
そんなことを考えながら映画を観ていたが、実は映画ではそ
れらの点が必ずしも明確に描かれていないような気がした。
それが原作ではどうなのか、そこで原作本を入手して読むま
で紹介を保留したものだ。
それで原作を読むと、原作者がその点をテーマとしては捉え
ていないことに気づいた。実際この原作は、フランス在住の
原作者が社会における異邦人やマイノリティが抱く圧迫感を
描いたもので、立場が逆の作品なのだ。
つまりこの原作では、惑星難民という状況は単にSFテーマ
を借用しただけであって、本来描かれているのは現実的な社
会現象の問題だった。このことは原作者自身の言葉の中にも
明確に表されている。
まあはっきり言ってしまえば、自らの言いたいテーマのため
にSFのシチュエーションを利用したものであって、惑星難
民に関してもさらにそこにSF的な考察をすることもなく、
単純に文章で解説してしまっている。
でもそれは作品の意図としては間違いではないし、SF好き
としても却って潔くて良いとも感じられた。しかも深く突っ
込んではいないが、それなりにSF的な発展性も考慮されて
いるのは、好ましくも思えたものだ。
それに対して映画化では、ある意味、物語をSFに近づけよ
うとする意図が感じられた。それはテーマの一部を隠してミ
ステリーにしようという意図でもあったと思われるのだが、
それが少し物語を判り難くしてしまったかな。
実際、物語では惑星難民は擬態するので同じ人物が2人存在
することになり、その点は原作では最初に明確に示される。
ところが映画化ではその点が隠されてしまっている。それは
SF好きなら判るような示唆はあるのだが…。
この作り方が良かったのか否か。正直に言ってSFを理解し
ない人には、単に難解な作品となってしまうようで、その辺
がSF好きとしては心配になってしまう作品だった。理解で
きれば面白い作品ではあるのだが。
公開は12月1日より、全国ロードショウとなる。
09月24日(日)
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