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On the Production
by 井口健二
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■それでも私は生きていく、Village/ヴィレッジ、帰れない山、TAR/ター、サイド バイ サイド 隣にいる人
そんな彼女の最後の夢は、師であるバーンスタインも愛した
マーラーの交響曲の全曲録音であり、それも第5番を残すの
みとなっていた。しかしその録音の日が近づくにつれ、徐々
に焦燥が高まって行く。それでも出版予定の自伝のプロモー
ションなど、多忙は極めていたが…。
そんな中で1人の女性演奏家の死を切っ掛けに彼女への信頼
が揺らぎ始める。それでも強気に録音の準備を進める彼女の
周囲で、思い掛けない陰謀が渦巻き始める。果たして彼女は
その困難を切り抜けることができるのか?
共演は、2019年の“Portrait de la jeune fille en feu”
でルミエール賞受賞のノエミ・エルランと、2012年11月紹介
『東ベルリンから来た女』などのニーナ・ホス。そして実際
にチェロの奏者で19歳のソフィー・カウアーがキーとなる役
柄で大抜擢されている。
他に2012年5月紹介『プリンセス・カイウラニ』などのジュ
リアン・グローヴァー、2020年1月12日付題名紹介『1917命
をかけた伝令』などのマーク・ストロングらが脇を固めてい
る。
物語の中では『猿の惑星』や『地獄の黙示録』など、映画の
話題も巧みに取り込まれ、正に実話にような物語が展開され
て行くが、実は主人公は全くの架空の人物。しかしブランシ
ェットの巧みな役作りや、正にオーケストラの裏を知り尽く
したような助言者の協力で実話と見まごう作品に作り上げら
れている。
そのリアルさは海外の論評でも誤解する所があったようで、
ウィキペディアの紹介では始めに架空の人物だという記載が
されているほどだ。この映画作りの妙がトッド・フィールド
監督の真骨頂と言えるのかもしれない。
これぞ映画の醍醐味という感じの作品だった。
公開は5月12日より、東京はTOHOシネマズ日比谷他にて全国
ロードショウとなる。

『サイド バイ サイド 隣にいる人』
別名義で2017年8月6日付題名紹介『ナラタージュ』などの
行定勲監督作品を手掛ける脚本家の伊藤ちひろが、同監督の
プロデュースの許で自らの原案・脚本により監督第2作とし
て発表した作品。因に、本作の企画は第1作より先にあった
そうだ。
主人公は霊魂が見えるという男性。それは死者の霊だけでな
く、遠く離れて暮らす人間の生霊もその思いが強ければ見え
るようだ。そんな主人公は自らの能力を使って人々が抱える
悩みやトラウマを解決し、人に癒しを与えてきた。
そして現在の彼自身は大自然に包まれた山里で、看護師の恋
人と彼女の妹と共に牧場の手伝いなどをしながら穏やかに暮
らしていたが…。ある日、遠くから届く異様な思いに心が騒
ぎだす。
その真意を確かめるためミュージシャンとして活動する昔の
友人のライヴ会場を訪れた主人公は、彼を巡って過去に起き
たある事件の真相を突き付けられる。それは彼自身が封印し
た過去の出来事だった。
主演は『ナラタージュ』にも出ていた坂口健太郎。共演は、
元乃木坂46の齋藤飛鳥、伊東監督の第1作にも出演の浅香
航大。他に2010年8月紹介『マザーウォーター』などの市川
実日子、子役の磯村アメリ。さらに茅島成美、不破万作、津
田寛治、King Gnu井口理らが脇を固めている。
テーマ的には、1999年のM・ナイト・シャマラン監督作品を
思い出すところが大きいかな。物語の展開自体は全く異なる
けれど、このテーマだと1999年作の結末がどうしても頭をよ
ぎってしまう。
その点でいうと本作ではその結末が極めて曖昧に感じられて
しまうのだが、それは監督の意図なのだろうか。もちろん同
じ結末にすることは避けたい気持ちは働くが、このように曖
昧だとそれをしてしまったのかという疑念も生じる。
ここはもっと明確な結末を、それが1999年作と同じであった
としても明示するべきだったような気がする。本作は仮に結
末が同じであったとしても、いろいろと面白い展開が期待で
きる作品のように思えるのだ。
その辺に妙に気を使ってしまったことが、本作の本来持って
いた意味も曖昧にしてしまった感じもするものだ。センスは

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03月05日(日)
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