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On the Production
by 井口健二
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■第29回東京国際映画祭<コンペティション以外>
かったが、そうはなっていなかった。
『鳥類学者』“O Ornitologo”
山奥に観察に来ていた鳥類学者が川に流され、摩訶不思議な
冒険に巻き込まれる。最初に遭遇するのは2人の中国人の女
性、続いては聾唖者の青年、そして天狗の面を被った若者た
ち。そんな連中が主人公を翻弄する。
物語にはキリスト教的な意味合いがあるらしく、その辺のこ
とは教徒でない僕には全く判らない。でもそれでもいいとも
思える作品。それにしても、明らかにプロの緊縛師がしたと
思われる吊りや天狗の面は一体何だったのだろうか。
『見習い』“Apprentice”
新人の刑務官が死刑執行の担当部に配属される。しかし彼に
は特別な事情があるようだ。いろいろな謎が徐々に解き明か
される。
まずまあ特殊過ぎるシチュエーションだが、それはないとは
言えないものだし、主人公の経緯などでそれなりの説得力は
持たされている。でもそこにサスペンスを盛り上げるでもな
く、ただ淡々と進むのは監督の意図なのだろう。
その点では説得力に欠ける気もしたが。
『アクエリアス』“Aquarius”
「アクエリアス」という名の古びたアパートに住む老女の許
に不動産屋が部屋の明け渡しの交渉にやってくる。そのアパ
ートに再開発の計画が持ち上がっているのだ。しかし老女は
頑としてその交渉を拒み続ける。
亡き夫と共に苦労して手に入れた住居、不動産屋の交渉に応
じればさらに快適な暮らしになることは判っているが、部屋
に残る思い出は捨てることができない。不動産屋の過剰な行
動も含めて現代社会にありそうな話が展開される。
『ザ・ティーチャー』“Ucitelka”
1980年代のチェコでの物語。女性の教師が受け持ったクラス
の初授業で生徒一人一人の家の仕事を聞いて行く。その目的
は…。共産党時代には横行していたのであろう権力を持った
者の横暴が描かれる。
有ったであろうことは想像できるが、その現実が見事に描か
れる。でもそれを笑いながら観て良いのか、震撼として観る
べきなのか、当事者でないとその判断も憚られる。
カルロヴィ・ヴァリ映画祭で主演女優賞を受賞した作品。
《日本映画スプラッシュ部門》
『かぞくへ』
上京して暮らしを作り彼女との結婚を控えた若者が、故郷の
幼馴染に仕事を紹介する。しかしそれは詐欺だった。そのた
め苦境に立たされた幼馴染に、彼は何をしてやれるのか。
現代の日本では頻繁に起こっていそうな物語。ただ主人公の
出す結論には賛否両論が巻き起こりそうだ。現代の若者には
これが常識なのか。主人公の取るべき道と共に、僕には判断
できなかった。
《ユース部門》
『アメリカから来たモーリス』“Morris from America”
元サッカー選手で現在はプロチームのコーチを務める父親と
共にドイツにやってきた黒人少年を描いた作品。彼はラップ
などもこなすが、中々周囲には溶け込めない。
子供向けの映画の紹介として新たに創設された部門だが、劇
中では大麻の吸引や性行為を思わせるシーンなどが垂れ流さ
れ、これがヨーロッパの現実にしても、僕はこの作品を子供
に観せたいとは思えなかった。
今年のコンペティション以外は、事前の試写会を含めて17本
を鑑賞した。
なお、《アジアの未来部門》作品賞は『バードショット』、
特別賞が『ブルカの中の口紅』に贈られた。部門の全作は観
ていないが、僕的には作品賞はちょっと不満かな。特別賞は
納得だが。
11月05日(土)
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