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On the Production
by 井口健二
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■あやつり糸の世界、蜜のあわれ、砂上の法廷、桜の樹の下
ドキュメンタリー。昨年の山形国際ドキュメンタリー映画祭
日本プログラムに正式出品され、多くの観客から高い評価を
受けたという作品。
団地は1973年に建設され、京浜工業地帯の真ん中に位置する
川崎市で高度成長期の日本を支える労働者が暮らしてきた。
しかしその役割はすでに終り、現在の居住者は約350世帯、
特定の条件を満たす住宅困窮者で、多くは高齢者の単身者が
市からの援助を受けて暮らしている。
そんな中に取材のカメラが入り、人々の日々の暮らしを写し
て行く。
そこには、夫を亡くして愛鳥と共に年金で暮らしていたが、
その鳥も死んで以後は近くの老人の世話を焼くようなる女性
や、ごみ屋敷のような部屋で暮らし、先の女性に世話を焼か
れながらも反発もする女性。
さらには視力の減退で障害者年金で暮らす男性や、満州から
の引揚者で企業にも務めたが身体を壊し、それでも若い頃に
関ったセミプロ劇団の仲間の励ましで再び脚本を書き始めよ
うとする男性などが登場する。
それらが1987年神奈川県出身、2013年日本映画学校(現・日
本映画大学)卒業、商業作品は本作が初めてという若い女性
監督・田中圭の目を通して綴られて行く。
試写の後で監督と少し話をしたが、本作では被写体を見つめ
る監督の目がものすごく優しくて、それは観ていても心が和
らぐというか、観ているだけでその情愛が伝わってくるよう
な作品だった。
しかしその一方で、本当にこれでいいのかという不安にも襲
われた。それは監督自身が映画製作の傍ら訪問介護の仕事も
しているという背景にも起因するのだろうが、作中で介護に
近いことをしている監督の姿に余計に心配にもなった。
試写の後の話では、取材は続けている風な口ぶりだったが、
出来れば一旦は別の題材に向って少し距離を置くことも考え
て欲しい。勿論この取材を続けることは構わないが、余りの
めり込むと自身を失ってしまいそうだ。
その意味で監督には、別の題材の次作も期待したいものだ。
公開は4月2日より、東京はポレポレ東中野ほかで全国順次
上映となる。
なおこの題名には、坂口安吾や梶井基次郎をふと思い浮かべ
たが、監督にそれは伝えなかった。今さら問題にすることで
はないだろう。

この週は他に
『人生は小説よりも奇なり』“Love Is Strange”
『僕だけがいない街』
『スポットライト 世紀のスクープ』“Spotlight”
『アイヒマン・ショー 歴史を映した男たち』
                 “The Eichmann Show”
『スイートハート・チョコレート』“甜心巧克力”
『偉大なるマルグリット』“Marguerite”
『もしも建物が話せたら』“Cathedrals of Culture”
『ザ・ブリザード』“The Finest Hours”
『ドロメ 女子篇』
を観たが全部は紹介できなかった。申し訳ない。

02月07日(日)
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