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On the Production
by 井口健二
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■ゴッド オブ バイオレンス/シベリアの狼たち、ワールズ・エンド、パンドラの約束
昨年のサンダンス映画祭で上映された際に、上映前には観客
の75%が反原発派だったが、上映後には80%が原発推進派に
転じたとされるドキュメンタリー。
一応、僕は反原発の立場なので一体どのようなプロパガンダ
で観客が意見を変えたのか興味を持って試写を観に行った。
しかし観ての印象は意見を変える程のものではなく、むしろ
現在の原発の危うさが見えてくるものだった。
その映画の中では、前半では環境保護論者を槍玉に上げて、
その主張の矛盾などを突いてくる。しかし例えば福島原発を
取材して避難する程の放射能ではないと言われても、立ち入
り禁止は政府の命令で保護論者の意見ではない。
また、チェルノブイリに関しては国連の「被害はなかった」
とする報告書を根拠とするが、僕らは2011年8月紹介『チェ
ルノブイリ・ハート』や同年9月紹介『カリーナの林檎』を
観ている訳で、その取材には疑問が生じる。
さらに先月紹介『福島 六ケ所村 未来への伝言』では、子供
たちに対して行われている過酷な医療検査の様子や、放射能
が検出されて投棄される漁獲などが紹介されており、これだ
けで反原発の根拠は充分だと考えている。
さらに本作の最後には原発の利点として、原発国フランスと
反原発国ドイツとのCO2排出量の比較が出されるが、元々ア
ルプスの南側の農業国と北側の工業国とを比較すること自体
がバカバカしい理論だ。
因に僕自身はCO2による地球温暖化説は信じていないので、
その理由での原発推進論には全く根拠を感じないものだが、
映画の中で言及されているので敢えて異を唱えて置くことに
しただけのことだ。
それに本作ではフランスの原発の核廃棄物の量が他国に比べ
て少ないことが紹介されるのだが、その量を減らす方法など
には言及されておらず、一体全体どうなっているのか、これ
は全く謎の情報だった。
その一方で本作ではIFR(Integral Fast Reactor=統合
型高速炉)について言及し、この技術が完成すれば安全且つ
核廃棄物のほとんど出ない発電プラントが実現すると紹介さ
れる。これは正しく夢の発電プラントだ。
しかしその開発はアメリカ政府によって凍結され、日本でも
増殖炉「もんじゅ」の開発は中止が発表された。この他にも
第4世代の原子炉技術がいくつか紹介されるが、いずれもま
だ実用化には至っていない。
ここでもしこれらの技術が完成し、そしてその安全性が明白
に立証されたら僕はその原発に反対しないかもしれない。で
もそれは現在の話ではない。僕はあくまでも現在の原発に反
対し、その意見はこの作品を見ても変わらなかった。
公開は4月19日から、東京はシネマライズ他で、全国順次上
映となる。
02月09日(日)
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