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On the Production
by 井口健二
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■ローン・レンジャー、共喰い、おしん、ストラッター、美輪明宏、マッキー、セブン・サイコパス、私は世界の破壊者となった(書籍)
は昨年の東京国際映画祭でも上映されているので、その際に
観たのかとも考えたが、昨年の鑑賞リストを見直してもそれ
はなかった。
それでも既視感は変わらないのだが、本作はそのような映画
を長年観てきた者に対する親しみというか、見事に共感を呼
ぶ作品になっているようだ。そしてそれは僕にとって実に気
持ちの良い感覚だった。
そこには挫折のどん底に置かれた主人公がいて、その主人公
自身はもはややる気も失いかけているのだが、そんな気持ち
が僕の胸にはストレートに響いてきて、そこから立ち直って
行く姿が心地よく感じられたものだ。
映画を観ていてこんな共感は滅多に感じられるものではない
し、そんな体験も過去にはほとんど覚えがないが、本作では
そんな稀有な体験をしてしまった。これは他人と共有できる
ものではないが、僕の心にはいつまでも残りそうだ。
出演は、ミュージシャンで短編映画にも何本か出演している
フラナリー・ランスフォードと、短編映画の監督で出演は初
めてのエリーズ・ホランダー。他はダンテ・ホワイト=アリ
アーノ、クレグ・スタークら主にミュージシャンの面々が脇
を固めている。
僕は音楽のことはよく判らないが、本作には主演者も含めて
ミュージシャンの出演も多く、実際に彼らが自作自演する生
の楽曲も数多く登場しているようだ。そんなミュージシャン
の出演で音楽シーンを描いた作品。
元々共同監督のカート・ヴォスも自らバンドを率いていると
のことで、それは音楽愛好家には音楽に対する慈愛に溢れて
いると取れるようだ。そしてそれは部外者の僕にとっても全
てが心地よく、観終って全てがハッピーに感じられるような
作品だった。
『美輪明宏ドキュメンタリー〜黒蜥蜴を探して〜』
“Miwa, à la recherche du lézard noir”
最近ではテレビのヴァラエティ番組でもお馴染みのシャンソ
ン歌手の姿を、フランスの映画監督パスカル=アレックス・
ヴァンサンが追った作品。
僕自身は美輪明宏が丸山明宏だった時分から知っている世代
で、ちょっと日本人離れした風貌のシャンソン歌手は、高英
男などと共に一時はテレビでもよくその歌声を聞いていた。
だからその丸山明宏が、突然「ヨイトマケの唄」を歌った時
にはかなり衝撃を受けたものだ。因に僕の子供の頃には、近
所で家の新築の時などにヨイトマケはよく行われていたし、
僕自身も遊びで綱を引かせてもらった記憶もある。
そしてその丸山が美輪に変身したのには違和感も感じたが、
今やその美輪の方が当たり前になってしまった。そんな世代
の僕にとって、この作品はかなり注目だったし、フランス人
がどう描いたかも興味津々だった。
そういう目で観て本作は、僕にとっては多少物足りない部分
もある反面、若い人や外国の人には実に上手く美輪を伝える
作品になっているように思えた。実際この作品はフランスで
紹介されたものだから、これはこれで充分と言える。
とは言うものの、例えば「ヨイトマケの唄」の誕生の経緯は
もう少し詳しく聞きたかったし、『黒蜥蜴』に出演する経緯
も三島由紀夫に請われたという話は、判っていれば判るけれ
ど、もう少し詳しく話して欲しかった感じもした。
その一方で、日本における同性愛差別に関しては、歴史学者
の解説も交えて説明がなされるもので、これはある意味で新
たな知見でもあって面白かったが、これを美輪のドキュメン
タリーに入れることには多少の異論も生じそうだ。
でもまあそれも含めて本作は『美輪明宏ドキュメンタリー』
である訳で、その点は満遍なく描かれている。
なお作品では、横尾忠則へのインタヴューや、アーカイヴだ
が映画版『黒蜥蜴』を監督した深作欣二の発言なども挿入さ
れており、その制作までの経緯なども面白く興味深かった。
因に、ヴァンサン監督はこの映画版『黒蜥蜴』を観て美輪の
妖艶さに魅了され、本作を作り上げたとのことだ。
しかし美輪の舞台は『黒蜥蜴』だけではなく、ジャン・コク
トーや寺山修司の作品もあるもので、それらへの言及がほと
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07月20日(土)
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