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On the Production
by 井口健二
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■アンノウン、ドリーム・ホーム、狂乱の大地、Peace、アベック・パンチ、レッド・バロン、ファースター、薔薇とサムライ
本作は製作の事情から「番外編」と称されているようだ。
監督のコメントによると、最初に韓国のドキュメンタリー映
画祭から、「平和と共存」をテーマとするオープニング用の
短編作品を依頼されたが、監督はテーマが先にあることを好
まないスタイルなので断ろうとしたそうだ。
ところが岡山県にある夫人の実家に帰省した際、義父が餌を
与える野良猫の様子を撮影している内に依頼されたテーマと
の共通性を見出し、やがてそれは義父母が従事している福祉
事業の実態に迫り、さらに戦争の記憶にも繋がって行ったと
のことだ。
そんな止処のない感覚で作られた作品ということだが、描か
れた作品はある一面で現代の日本人の生きる姿が見事に写し
出されたものになっていた。
正直には、最初の野良猫に餌をやる男性(義父)の姿に、近
所の公園に餌を散蒔いている連中を腹立たしく思っている自
分としては退いてしまうところもあったが、彼の場合は自宅
の庭に限っているし、そこに写し出される猫の様子には興味
を引かれた。
そしてその男性が行っている福祉事業については、自分の娘
が丁度そのような職場に就職していることもあって極めて興
味深く観させて貰えたものだ。
それにしても、我国の福祉行政の貧しさは娘から聞かされて
いる以上の惨状としか言いようのないもので、それがこのよ
うな人々の無償の努力に支えられているのかと思うと、それ
は全く頭が下がるとしか言いようのないものだった。
そこに描かれるのは、障害者を施設や日常の買い物などに送
り迎えする、一応は有償とされている搬送業の実態や、在宅
者へのヘルパー事業。しかしそれらは事業と言っても報酬は
微々たるもので、軽自動車のガソリン代や経費を引くと何も
残らない。
そんな状況が監督の観察によって描き出されるが、それでも
この人たちは「ボランティアだねえ」と言いながらそれを続
けている。そんな素晴らしい人たちがいることも、この作品
はしっかりと描いている。
なお本作は、昨年の東京フィルメックスで<観客賞>を受賞
した他、香港国際映画祭で<最優秀ドキュメンタリー賞>、
またスイスで開催されたVision du Reel映画祭でも、現地の
映画作家に因んだBuyens-Chagoll賞という賞を受賞したそう
だ。
『アベック・パンチ』
2004年6月紹介『恋の門』の原作などが連載された「月刊コ
ミックビーム」の15周年記念作品と銘打たれた作品で、同誌
を発行するエンターブレインが映画製作も行っている。
発想は「スキージャンプ・ペア」辺りにあるのかな…、本来
は個人戦である格闘技をペアで行うというのが見所と言える
新規な格闘技を題材にした物語。しかもそのペアは男女で同
時にリングに上がり、手を繋いだまま闘う。
物語は「アベック」と呼ばれるその競技が成立している状況
を背景に、喧嘩では負け知らずだった硬派の男子高校生が、
因縁を付けた男女に手を繋いだままの一撃で倒されたことか
ら始まる。そしてその男女が「アベック」のチャンピオンだ
ったことを知り…
これにペアの相手女性を探す経緯や、プロになるための筆記
試験の顛末、さらに主人公の仄かな恋の思い出、また外国人
の不法滞在の問題などが絡んで、まあ一面では青春物語のよ
うなお話が展開される。
出演は、D-BOYSのメムバーでテレビ「和風総本家」などにも
出ている牧田哲也、昨年7月紹介『七瀬ふたたび』に出てい
たという鈴之助、3月紹介『マイ・バック・ページ』に出て
いたという水崎綾女、それに昨年12月紹介『KG』の武田梨
奈。
脚色と監督は、昨年8月紹介『making of LOVE』などの古澤
健。
『KG』を観ている者としては武田のアクションにもう少し
期待したが、相手が俳優だと中々思い切りという訳には行か
なかったようだ。でもそれならそれなりの観せ方もあったの
では…?その辺が多少物足りない感じはした。
特に「アベック」の連携技にはもっとアイデアが欲しかった
もの。確かに上下同時の回し蹴りや、女性を振り回しての蹴
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04月17日(日)
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