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On the Production
by 井口健二
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■黒く濁る村、キック★アス、酔いがさめたらうちに帰ろう、ソフィアの夜明け、乱暴者の世界、とびだす絵本+製作ニュース
作品については、昨年10月16日付の東京国際映画祭の報告の
中でも取り上げているので、物語などはそれを参照してもら
いたいが、作品に対する全体の印象は今回見直してもあまり
変わらなかった。
ただ今回見直していて、登場する若者たちの変わろうとする
思い、変えようとする意志のようなものは昨年観たときより
強く感じられたもので、監督のこの作品に込めた思いがそこ
にあることは確かなようだ。
ヨーグルトでも知られるブルガリアは、元々は農業が主産業
の国だったようで、そんな国がソビエト連邦の庇護下にある
内は良かったが、いざ独立して近代化を進めようとするとい
ろいろな社会の歪みが噴出してくる、そんな感じも受ける作
品だった。
とは言え本作は、主人公を演じたフリスト・フリストフの自
伝的な要素も強い作品と言われており、そんな激動する社会
の真っ只中にいたフリストフが、正に実体験として感じてき
た出来事が綴られているようだ。
昨年の紹介の中でも書いたが、本作ではネオナチなどの存在
が日本の社会とは多少異なる要素になっている。しかし社会
に対する持って行き場のない不満や不安に関しては、今の日
本と変わることのない若者の苦悩が描かれており、その点で
も共感のできる作品だ。
そして上記したように、その若者たちが変わろうとし、変え
ようとする気持ちが伝わってくることに、この作品の素晴ら
しさが感じられるものだ。
監督は、60本を超えるCFなどの演出を手掛け本作が長編デ
ビューのカメン・カレフ。その監督の友人のクリストフは、
今まで演技経験はなかったが、本作をドキュメンタリー調で
撮りたいとする監督がその原案を提供した本人に演じさせて
いる。
他にブルガリア人の配役では、実弟役のオヴァネス・ドゥロ
シャンと主人公の恋人役のニコリナ・ヤンチェヴァは、いず
れも国立演劇映画学院の学生で本作がデビュー作。
一方、トルコ人の配役では、旅行者の娘役を2007年のカンヌ
映画祭に出品された『卵』の演技で各国の映画祭の演技賞や
新人賞を受賞しているサーデット・ウシュル・アクソイ。そ
の母親役のハティジェ・アスランはトルコの国立劇団に所属
しているベテラン女優だそうだ。
以下は多少ネガティヴな評価ですが、作品としては紹介して
おきたいものなので掲載します。
『乱暴者の世界』
今年2月開催のゆうばり国際ファンタスティック映画祭2010
「ゆうばりチョイス部門」で上映された日本映画。
物語は、ティッシュペーパーを紙幣と思い込ませる類の集団
催眠術を使って飲み屋の支払いを誤魔化す黒服の男と、その
催眠術には免疫を持っているらしい主人公の対決を主軸とし
たもの。
黒服の男は自分が行っているのは催眠術ではなく、自分の思
念で作ったパラレルワールドに移動しているのだと主張して
いるが、その主張の根拠は不明。そして主人公が2年前から
同棲している女性を巡って、2人の対決が始まる。
宣伝コピーには「SF風味な青春映画」とあったが、本作の
物語は、それがパラレルワールドだとすればアイデアとして
は面白いかもしれない。しかしそのアイデアがSFとしては
何ら活かされておらず、SFファンとしては不満足…そんな
辺りの作品だ。
その一方で、青春映画としては「こんなものかな」とも思え
るが、同じような「SF風味な青春映画」なら、8月に紹介
した『アワ・ブリーフ・エタニティ』の方が、もう少しSF
だったし、青春映画だった気がする。
つまり基本的にSFを判っていない人たちが、SF風味のア
イデアだけは思いついたが、結局SFにはできなったという
感じの作品。まあ元々「SF風味な青春映画」なのだから、
それも仕方がないが。
それと本作では台詞が同時録音ではなく全てアフレコされて
いるが、これが何とも違和感があった。プレス資料によると
監督の田中圭、脚本の高橋玄は共に香港映画に本拠を置いて
いる人たちだそうで、香港映画はアフレコが決まりだからそ
うしたかったのかな。
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10月03日(日)
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