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On the Production
by 井口健二
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■白いリボン、クロッシング、ストーン、海炭市叙景、うまれる、フード・インク、美女と野獣3D+他
いた。
『海炭市叙景』
1949年函館の生まれで、文學界新人賞、新潮新人賞、さらに
芥川賞に5回、三島由紀夫賞の候補にもなったが一度も受賞
を果たせず、1990年に41歳で自死した作家・佐藤泰志の死後
に出版された連作短編集からの映画化。
元々原作は、作者が東京での作家生活に疲れて、一時故郷の
函館に転居した際に、職業訓練学校に通いながら構想したも
のとのことで、そんな原作者の心情のようなものも色濃く感
じられる物語が展開されている。
物語の舞台は、港や造船所があり、路面電車が走り、山から
市街の夜景を見下ろす展望台もある北国の町=海炭市。その
町に暮すいく組かの家族の生活ぶりを追って、それらの家族
が背負ういろいろな問題が描かれて行く。
その1組目は、慎ましく暮す兄妹。造船所に勤めていた兄が
失職し、年を越す金も乏しくなるが、大晦日の夜2人は山の
展望台に向かう。2組目は、再開発の進む地区で、猫や鶏、
山羊に豚まで飼って暮す老女。市の職員が引っ越しを斡旋す
るが老女は聞き入れない。
3組目は、プラネタリウムで働く男性の一家。妻が水商売で
働き始め、外泊までするようになって一家は崩壊寸前だ。4
組目は、ガス屋の事業を継いだ男の一家。新規の事業が上手
く行かず、再婚の妻は1人息子を虐待している。
そして5組目は、路面電車の運転手。父親の命日が近づいた
日、町で東京で暮している息子の姿を見掛けるが、息子は家
に寄りつこうとしない。原作では18組描かれている内の5組
の家族に焦点を当ててその物語が映画化されている。
その相互の物語は、多少行き交う部分もあるが、アンサンブ
ル劇と呼べるほどではなく、正しく連作短編という感じ。た
だもう少し上手く整理されていれば、それなりのアンサンブ
ル劇になったかもしれないが、現行の作品は却ってそれが小
手先のような印象にもなっている。
それに上記の原作者の環境のせいか、物語の全体は息苦しく
なるほどにその行き場のないものになっている。それに各物
語が解決策や決着を描かないのは、題名通りの「叙景」とい
うことになるが、それも観客に重くのしかかってくる。
監督は、2008年10月紹介『ノン子36歳』などの熊切和嘉。
同じ北海道は帯広生まれの監督が北国の生活を丁寧に描いて
いる。
出演は、谷村美月、加瀬亮、三浦誠己、南果歩、小林薫、山
中崇、それに熊切作品には3本目の竹原ピストル。他に伊藤
裕子、あがた森魚らが出演している。
なお本作は、10月に開催される第23回東京国際映画祭のコン
ペティション部門に選出されている。他にも、原作者の佐藤
泰志が東京で暮していた国分寺界隈で、作品に関連するさま
ざまなイヴェントが計画されているようだ。
『うまれる』
1973年の生れ、29歳の時にカナダに渡って映画製作を学び、
帰国後はフリーでテレビドキュメンタリーやプロモーション
ヴィデオの制作を行っていたという映像クリエーターの豪田
トモが、2008年に撮影を開始した子供の誕生をテーマにした
ドキュメンタリー。
出産をテーマにしたドキュメンタリーでは8月に『弦牝』と
いう作品を紹介しているが、本作では最初に「胎内記憶」の
話題が出されるなど、正しく子供の誕生に焦点の合わされた
作品になっている。
そしてそこには、母親の虐待を受けて育った妻と両親の不仲
を観て育った夫という、子供時代の喜びを知らずに育った夫
妻が、子育てに不安を感じながらも新たな命の誕生を待ちわ
びる姿を中心に、死産を経験した夫妻や障害を持って生まれ
た子供を育てる夫妻など、様々な子供の誕生を経験した親た
ちの姿が綴られて行く。
それは、僕自身が多少ドラマティックな経緯も含め、子供の
誕生にも立ち会って子育ても経験した者には、その当時を思
い出させてくれるものだし、それによってその時の感動も呼
び覚まされる作品と言うこともできる。
ただし、これを子供を持ったことのない人たちが観てどのよ
うに感じるのか。特に本作では、死産や障害を持って生れた
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09月19日(日)
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