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On the Production
by 井口健二
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■第22回東京国際映画祭・コンペティション以外(1)
こには映像に引き込まれるものがあった。その迫力の映像だ
けで観せ切られてしまったようなものだ。
ただし、元がSDで撮影されたらしいスタンダード画面の映
像は、上映の行われた劇場の2KのHDプロジェクターとは
相性が悪いらしく、特に画面が上下左右に動いたり、被写体
に動きがあると画面が大幅に乱れた。
以前にSDの画像でも事前にイマジカなどでHDに変換すれ
ばそれなりの映像になると聞いたことがあるが、SDの信号
をそのままプロジェクターに入れたのではこの程度にしかな
らないようだ。
それなら劇場に併設されていたSDのプロジェクターで上映
してくれた方がまだましだったようにも思えるが、その辺の
気は廻らなかったのかな。これでは観客に観せる映像ではな
いようにも思えた。

『シングル・マン』(WORLD CINEMA部門)
この作品は、ゲイの自殺がテーマとなるもので、この日は、
『キング・オブ・エスケープ』→『TOCHKA』→本作と
続けて観ることなり、何だか3段落ちのような感じになって
しまった。
物語はキューバ危機さなかのアメリカ西海岸が舞台。主人公
はそこの大学に務めるイギリスから来た英文学の教授。彼の
同居人だった建築家の男性が交通事故で亡くなり、悲嘆した
彼は自殺を思い詰めるようになる。そしてその準備を淡々と
進めて行くのだが…
原作は1964年に発表されたクリストファー・イシャーウッド
の小説。それを著名なファッション・デザイナーであるトム
・フォードが自ら脚色し、初監督作品として製作された。因
にフォードは“Quantum of Solace”に衣装を提供している
他、2001年“Zoolander”には自身の役で出演もしていたよ
うだ。
また、本作は今年のヴェネチア映画祭のコンペティションに
出品されたもので、その際、主演のコリン・ファースが男優
賞を受賞している。共演はジュリアン・モーアと、2010年公
開予定のリメイク版“Clash of the Titans”にも出演のニ
コラス・ホルト。
ゲイで自殺がテーマの作品ではあるが、主人公の悲しみには
彼の性癖を超える普遍性があるし、映画の全体にはそれを乗
り越えていこうとする希望も見える。異業種の人の初監督作
品で、観るまではいろいろ不安もあったが、観終えての満足
感は高かった。
ただし、画面が妙にざらついた感じなのは時代感覚を出すた
めの演出かも知れないが、それが功奏しているようには感じ
られず、かえって違和感が強く残った。その辺は本業ではな
いことの弱点だったかな。おそらく撮影後の処理と思われる
が、もっときれいな画面で観たかったものだ。
なお本作の上映は、トム・フォードの日本事務所の協力で実
現したものだそうで、映画の日本公開は未定のようだ。

『ザ・コーヴ』(追加上映)
今年の東京国際映画祭では一番の問題作と言えるかも知れな
い作品。和歌山県太地町で行われているイルカ漁を告発する
ドキュメンタリー。
イルカは、アメリカでも1960年代のテレビ番組“Flipper”
のお陰で爆発的に人気が高まり、今でも全米各地の海浜型リ
ゾート地にある水族園では、大きなプールで行われるイルカ
のショウが欠かせないものになっているようだ。
しかしイルカは聴覚が極めて優れた生物で、ショウでの観客
の喝采などが苦痛に感じられているはずだという…と言いな
がら、作品はそのイルカのショウを止めさせるというのでは
なく、そのイルカの供給元である和歌山県太地町に矛先が向
けられる。
そこは沖合にイルカが通る道があるという場所で、シーズン
になるとその通り道を騒音で遮断する追い込み漁が行われ、
入り江に追い込まれたイルカを買い付けに世界中の水族園か
ら依頼された業者がやってくる。
しかしイルカは全頭が買われる訳ではなく、当然売れ残りも
出る。そしてその売れ残ったイルカは屠殺されてクジラ肉と
して出荷されて行く。日本の食品店などで和歌山産の生食用
クジラ肉とされているのは、ほとんどがイルカの肉だと言う
ことだ。

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10月20日(火)
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