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On the Production
by 井口健二
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■母なる証明、ピリペンコさんの手づくり潜水艦、僕らのワンダフルデイズ、無防備、犬と猫と人間と、動くな死ね甦れ!+製作ニュース
自分自身がリストラなどの社会経験を経て、また自分の娘が
福祉関係に勤務していたりすると、いろいろな社会の理不尽
さを家族で話し合うこともある。そんな中で気付かされるの
は、いろいろな意味での社会弱者となっている人の心理が、
普通に生活している者からは全く想像も付かないものだとい
うことだ。
そんな社会弱者に対する思いやりが一杯に詰まった作品とも
言えそうだ。
脚本と監督は市井昌秀。元々は芸人を目指して劇団東京乾電
池の研究生になったりもしたが果たせず、心機一転映画監督
を目指しての3作目だが、第2作がPFFの準グランプリを
獲得し、本作ではグランプリ、さらに釜山国際映画祭のグラ
ンプリも受賞している。
主演は、市井監督の全作に主演している森谷文子。共演の妊
婦の新人役は監督夫人でもある今野早苗。因に本作は夫人の
妊娠が判ってから企画製作されたものだそうで、劇中の出産
シーンは実際のものが撮影されている。
なお映画では、勤務先での様子に並行して主人公の家庭での
夫との生活も描かれるが、そこでの夫の態度は、男性である
僕が観てかなり憤りを感じるものだった。でもそれが映画の
中の夫には理解できないのだろう。そんなことも上手く描か
れた作品だった。
『犬と猫と人間と』
ペットブームの中での犬猫と人間の関係を描いたドキュメン
タリー。
普段は路上生活者などの姿を追っているというドキュメンタ
リー作家の飯田基晴監督が、野良犬や野良猫、そしてその末
路を追った作品。
映画製作の切っ掛けは、下高井戸シネマで行われたドキュメ
ンタリー映画祭に監督の作品が上映され、その鑑賞に来てい
た女性から声を掛けられたのだという。その女性は猫が好き
だが自分に余剰のお金があるからそれを使って映画を作って
欲しいと依頼されたのだそうだ。
その依頼に、動物には興味の無かった監督は最初は躊躇する
のだが、女性の熱意に押された形で取材を開始する。そして
それは、監督が涙を拭いながら取材を続けるほどの事態に遭
遇することになって行く。
野良犬や野良猫の存在する理由やその末路に付いてここに描
かれる内容は、それらに関心のある者にとっては先刻承知し
ているものがほとんどだ。しかし、元々興味が無かったこと
が幸いしたのか、ここではそれらが実に丁寧に判りやすく纏
められていた。
しかもその視点が、基本的に社会弱者に向けられるのと同じ
目線で描かれていることが、これらの動物たちを人間と平等
に描くことにも繋がり、この作品を上から目線でない優れた
作品に完成させているようにも思えた。
それにしても、自分が犬を飼っている身としては、ここに写
されるいくつかのシーンは胸が締め付けられるというか、本
当に正視するのが厳しい作品だった。それも躊躇無く写し出
している点も、この監督の選択に間違いが無かったというこ
となのだろう。
そして凶暴になってしまった犬の訓練の難しさなども丁寧に
描かれ、さらには他の自作の上映で招かれたイギリスでこの
作品のための取材が行われるなどの下りには、ある種の作品
の運命みたいなものも感じられた。
それにしても、映画の中で明日の処分を待つ犬の切ない鳴き
声には、自分の愛犬も年齢を経ていろいろ喋り出すのを聴い
ている身には、本当に何を訴えたいのだろうかと、心の底か
ら悲しみが湧き上がってくる感じがしたものだ。
『動くな、死ね、甦れ!』
“Замри, умри, воскресни!”
1990年カンヌ国際映画祭でカメラ・ドールを受賞した旧ソ連
ヴィターリー・カネフスキー監督の作品。第2次世界大戦の
終戦直後のソ連極東に位置する炭坑町を舞台に、厳しい環境
の中に生きる子供たちの姿を描く。
その町は半ば収容所と化しており、町には日本語の歌を歌う
日本人捕虜らも屯している。そんな町で主人公は母子家庭で
生活し、母親には愛人がいるのか若しくは娼婦なのか、家に
はそんな男も出入りしている。
そして主人公は悪戯ざかりでいろいろなことをやってのける
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08月09日(日)
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