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On the Production
by 井口健二
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■カフーを待ちわびて、はじめての家出、天使の目・野獣の街、クジラ、エレジー、年々歳々、いのちの戦場、重力ピエロ
して、テレビのヴァラエティ番組などでも披露されている松
平の料理に関する蘊蓄や、包丁捌きなど料理番組さながらの
手際も披露されるのだ。
つまりはそういう乗りの作品なのであって、そこにとやかく
言う筋合いはない。要はその乗りに付いていけるかどうかだ
が、普段から件のヴァラエティ番組を観ている僕の目には、
さほどの違和感もなく気楽に楽しむことができた。
共演は、岩佐真悠子、中村譲、秋本奈緒美、それに『スキト
モ』など、ここでの紹介の機会の多い斎藤工。因に斎藤は、
松平の前で料理をするシーンがあるなどかなりの抜擢だ。
主人公が「素人さんを傷つけちゃいけない」と繰り返すのは
多少ウザイ感じのところではあるが、まあコメディとしては
そつなく作られた作品と言える。宣伝コピーは、「グルメな
大人の青春映画」。その通りの作品だ。

『エレジー』“Elegy”
2003年『白いカラス』などの原作者フィリップ・ロスの短編
“The Dying Animal”から発想されたニコラス・メイヤーの
脚本を、『死ぬまでにしたい10のこと』などのイサベル・
コイシェの監督で映画化した作品。
初老の大学教授と、社会生活を経て大学院に再入学した大人
の女性の切なくも濃密なラヴストーリーが描かれる。
主人公の大学教授は、奔放な生活を楽しむために家庭を捨て
た男。そんな気儘な生活の中で、ある日、彼は自分の授業に
現れた1人の女性に目を留める。そして、恋愛に対しては古
風と思われる彼女に対して、じっくりと愛を育んで行くこと
にするのだが…
そんな2人の関係は、2人の間ではうまく行っているものの
対外的には後ろめたさを感じざるを得ないもの、それが2人
の関係に暗い影を落として行くことになる。この大学教授役
をベン・キングスレーが演じ、女性にはペネロペ・クルスが
扮している。
ちょっと前のこのページで、日本映画の俳優がただ脚本通り
に演じているだけのように見えると書いたが、この作品での
ペネロペ・クルスの演技を見ていると、実に端々まで役にな
り切っていることが判る。
それは細やかな指先や目の動かし方の一つ一つまでもが、役
柄の人物であることを感じさせるものだ。そこには監督の演
出もあるのだろうが、その全てを指示することは不可能。結
局、最後は俳優の演技力ということになるものだろう。
もちろんその演技はベン・キングスレーも素晴らしいものだ
が、さらに本作では、共演のデニス・ホッパーやパトリシア
・クラークソンらも最高の演技を見せてくれる。
そう言えば、ロスの原作では『白いカラス』のアンソニー・
ホプキンス、ニコール・キッドマンも素晴らしかったが、こ
の作家の原作からは俳優の演技も最高のものが引き出される
ことになるようだ。もっとも今回はメイヤーの脚本でもある
ものだが。
ただし物語の結末は、結局これでしか彼らの幸せが達成でき
ないことは理解するのだが、余りに侘しい展開に胸を突かれ
る想いがした。しかもそれが、事が順調に進んでいればそこ
までには至らなかったのではないかという結末であれば尚更
のことだ。
でも主人公らは、その障害を乗り越えて進んで行くのだろう
し、その希望を感じ取りたいものだ。この物語の結末は決し
て悲劇的なものではない。

『年々歳々』
avexニュースター・シネマ・コレクションと題するavex製作
による長編作品集の1本。
過去に起きた悲劇的な出来事のために「自分は幸せになって
はいけない」と思い込んでしまった少女の物語。
少女の住む家の庭には花がない。そこは花好きの父親が丹精
を込めているはずの場所なのだが…そんな少女と母親の住む
家に、両親が遠隔地に赴任したため居候することになった従
姉妹の少女が入居してくる。
しかし、その従姉妹の目に写る主人公と母親の生活はあまり
に異常なものだった。特に、母親は娘を嫌っているようにし
か見えず、娘の誕生日を祝ってやることもしない。そして娘
は従姉妹に向かって「私は幸せになってはいけない」と言い
切ってしまう。

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12月14日(日)
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