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On the Production
by 井口健二
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■英国王給仕人に乾杯、悪夢探偵2、戦場のレクイエム、ソウ5、クローンは故郷をめざす
潜り抜けて行くかというメインのテーマは同じで、そこに今
回は、すでに死亡したはずのジグソウの後を誰が継いだのか
という真(新)犯人捜しがサブプロットとして展開されるこ
ととなる。
でも、見ものはやはりいろいろ趣向を凝らした死の罠で、今
回は5人の対象者を相手に手の込んだ仕掛けが展開される。
そして、実はそれが…と言うところもシリーズの定番として
活かされているものだ。
駄目な人には元々駄目なものだが、好きな人には今回もその
期待は裏切らないし、これでシリーズも安泰と言う感じ。
因に、本作の宣伝コピーには「遂に最期か」とあるが、確か
に本作では以前に提示された謎の回答はいくつか示されるも
のの新たな謎もてんこ盛り。その上、試写会の後に行われた
恒例の監督へのQ&Aでは、「その謎の答えは“Saw 6”で
描かれるであろう」という発言まで飛び出して、シリーズの
継続は決定済みのようだ。
なおこのQ&Aでは、僕も「監督自身、本シリーズの前の作
品に勝ったと思っているところ」という質問をしてみたが、
その回答は「エモーショナルな部分を強くした」とのこと。
実際、今までシリーズでは封じられていた長回しのシーンも
今回は採用されているとのことだ。
また、別の質問で「日本映画で好きな作品は」と訊かれて、
監督は2001年公開の『殺し屋1』を挙げていたもので、なる
ほどと思わせるシーンも登場する作品であった。

『クローンは故郷をめざす』
1994年度ぴあフィルムフェスティバルの受賞者で、その後は
海外の映画祭などでも受賞歴のある中嶋莞爾脚本・監督によ
る近未来SF作品。
物語は、宇宙ステーションが完成して、日本人パイロットも
宇宙空間での作業に従事している時代が背景。その1人が事
故で亡くなり、特殊技能を持った人材を失うことによる計画
の遅滞を恐れた政府は、クローン再生による人材(技能)の
確保を検討する。
その時代、移植のための本人細胞によるクローン臓器の再生
技術は確立されており、計画はその技術を応用して採取され
たDND時点での全身体を再生、メモリーに保存されたそれ
までの記憶を移植して、その時点の技術を持った人材を再生
しようというものだ。
そして主人公も事故に遭い、その技術によってクローン再生
が行われるのだが…
当然、そこには人格の同一性などの問題が生じて行くことに
なる。そしてそこには、オリジナルの自分との確執や、過去
の記憶が再生されることによる様々な問題が生じてくる。
そんなSFとしてもかなり興味の曳かれる物語が、再生され
たクローンを主人公にすることによって判りやすく展開され
て行く。いや正直に言って、映像作家と呼ばれるこの手の監
督の作品で、これほど真面目にSFが描かれていることは期
待していなかった。
もちろん映像的には、タルコフスキーを手本にしていること
はすぐに思いつくが、その一方で、ある意味『ソラリス』の
別ヴァージョンとも言える作品を見事に構築してみせてくれ
た。しかも、『ソラリス』では曖昧にされた理論的な考察も
されているように思える。
実際にこのようなクローン技術が可能なものであるかどうか
は別の問題として、その架空の理論の中では物語が首尾一貫
していることは認めるべきものだろう。この首尾一貫性が日
本のSF映画ではなかなか望めなかったもので、その意味で
は、この映画をSF作品として大いに評価したいものだ。
主演は『日本沈没』などの及川光博。他に、石田えり、永作
博美、嶋田久作、品川徹らが共演。また、美術監修を86歳の
木村威夫が手掛けていることも注目される。
なお本作は、監督自身の手になるオリジナル脚本が2006年の
サンダンス・NHK国際映像作家賞を受賞したもので、その
時の審査委員長だったヴィム・ヴェンダースの製作総指揮に
より映画化された。
(本作は東京国際映画祭「日本映画・ある視点」部門で上映
された)

今年の第21回東京国際映画祭では、コンペティション作品の

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10月26日(日)
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