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On the Production
by 井口健二
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■永遠の魂、タクシデルミア、黄金の羅針盤、恋する彼女西へ、トゥヤーの結婚、アメリカン・ホーンティング、結婚しようよ
・グリーン、サム・エリオット。また、ダイモンの声を、フ
レディ・ハイモア、クリスティン・スコット・トーマス、キ
ャシー・ベイツ、イアン・マッケランらが担当している。
脚本、監督は、2002年の『アバウト・ア・ボーイ』を手掛け
たウェイツ兄弟の片割れクリス・ウェイツ。海外では37カ国
で初登場第1位の興行を記録したそうだ。
『恋する彼女、西へ』
広島ものという情報だけを得て試写を見に行った。
昨年には『夕凪の町、桜の国』が公開されたし、その前にも
『父と暮らせば』があって、原爆=広島ものは、次はどんな
手立てで来るか…という感じにもなってしまうところだが、
今回は少し自分のテリトリーにも近付いて、多少意見の述べ
たくなる作品だった。
物語の舞台は現代、主人公は30路に差し掛かったキャリアウ
ーマン。元々は建築家を目指していたが、今はホテルチェー
ンの建設を行う会社の営業担当で、社内ではオツボネ様との
陰口もあるが、今回は新人が失敗した地主との交渉再開のた
め広島にやってくる。
そして2005年の夏の暑い日、平和公園の近くにある古い橋の
上で、真新しい帝国海軍の軍服に身を包んだ若い男に遭遇す
る。その時、街には戦後60年を記念して60年前の旧型の路面
電車が復活運行されていた。
SFの題材が、こんなにも簡単に物語に入ってきてしまうと
いうのは、何とも感慨というところだが、原作脚本を手掛け
たのは、今年の大河ドラマ『篤姫』も担当している田淵久美
子で、そういう脚本家がこのような題材を扱うということに
も驚かされた。
しかも、主人公が原爆投下直前の過去に飛ばされて、そこで
右往左往させられるという話は、脚本としては作りやすいと
思われるが、本作では逆に過去から現代にやってくるという
もので、それで話を作るというのは案外難しいものだ。
しかし本作では、それをキャリアウーマンの恋愛という形で
見事に昇華させて、素敵にロマンティックな物語に仕立て上
げている。そしてその物語を、主演の鶴田真由と池内博之が
見事に演じている作品だ。
それがこの作品の目的だし、その点では何の問題もない作品
だろう。しかし、SF映画の観点ではいろいろ注文が生じて
しまうのが残念なところだ。しかもこれが、ちょっとした工
夫でもっと良くできたと思われるのだ。
この作品の問題点は、過去から来た男が、死ぬことが判り切
っている過去に帰る必要があるのかという一点に絞られる。
その理由付けがこの作品では、彼が現代で1人の老人に出会
うことによっているのだが、それが本作では過去の自分だっ
たからと説明される。しかしこれでは過去に戻る理由付けに
はならない。
何故なら過去に戻らなくても自分はここにいるのだし、それ
によって生じるのは、1人の老人が過去の世界で消えたとい
うことでしかないからだ。そしてその老人が消えたことによ
る歴史の改変は微々たるものでしかない。それが『サウンド
・オブ・サンダー』になる可能性はあるが、本人的には戻る
必要はないとするのがSF的な解釈だろう。
では、この物語で過去に戻る必要が生じるのはどのような場
合か。それはこの老人がその男によって救われたとする場合
だ。この時点で彼は、自分が過去に戻っても人々を救えると
は確信していないはずだ。でもここにたった1人かも知れな
いが、少年を救ったという事実がある。それなら自分は過去
に戻らなくてはいけない。
そして、その彼の行為が最後老人によって語られたときに、
この物語はSFとして完結する。自分自身のためより他人の
ため、その方が物語としても感動的なものになると思うのだ
が…
本来この作品はラヴロマンスとして構築されたものだし、そ
の目的は充分に果たされていると思われる。しかしそこにS
F的な題材を持ち込んだのなら、SFとしても完結して欲し
いと思うのが僕の立場だ。
その意味でこのサイトでは、そのちょっとしたヒントを提示
することをこれからもしていくつもりだ。
『トゥヤーの結婚』“圖雅的婚事”
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01月20日(日)
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