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On the Production
by 井口健二
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■ボルベール、ラブソングができるまで、石の微笑、チャーリーとパパの飛行機、ルネッサンス、暗黒街の男たち、輝ける女たち
の映画を見ながらアルベール・ラモリス監督の“Le Ballon
Rouge”(赤い風船)を思い出していた。孤独な少年と赤い
風船の心の交流を描いた1956年の作品は、当時ジャン・コク
トーも絶賛した名作だ。
本作は、中編のラモリス作品より物語も複雑だし、エピソー
ドも盛り沢山で、ラモリス作品の詩情のようなものは、現代
的な物語の中では希薄になってしまうが、大空への憧れのよ
うな部分など、何となく似た感じが嬉しかった。
因に本作は、コミックスを原作にしているそうだが、その原
作も読んでみたくなったものだ。
監督のセドリック・カーンは、過去には、A・モラヴィアの
『倦怠』やシムノンのサスペンスなども手掛けているという
ことで、そこから考えるとかなり思い切った作品と言える。
でも子供を主人公に据えて、しっかりとそれを描いているの
には感心した。
ただし、邦題はチョコレート工場の影響か『チャーリー…』
だが、これは当然英語読みな訳で、フランス人の少年は、僕
が見たときは字幕でも「シャルリー」と呼ばれていた。しか
しこれでは混乱が生じてしまいそうで、やるなら字幕も統一
して欲しいものだ。
確かフィンランド映画の『ヘイフラワーとキルトシュー』の
ときは、お母さんが「ヘイナハットゥ」と呼んでいても、字
幕は「ヘイフラワー」だったはずで、それくらいはやっても
問題ないと思うが。
なお、音楽の担当はガブリエル・ヤレドという人だが、これ
にちょっと『ドラゴンクエスト』のダンジョン風の曲があっ
て、それがまたそういう雰囲気のシーンで流されるので、そ
れも嬉しくなった。
『ルネッサンス』“Renaissance”
1998年に“Maaz”という短編作品で高い評価を受けたという
クリスチャン・ヴォルクマン監督の初長編作品。モーション
・キャプチャーを利用したアニメーションで、墨と空白の木
版画のような映像の中、近未来のアクションドラマが展開す
る。
時は2054年。舞台はパリ。街角には巨大企業アヴァロン社の
ヴィジュアル広告が氾濫し、人々を健康的な理想の世界へと
誘っている。そのアヴァロン社でトップクラスの女性研究員
が誘拐される。その捜査が始められるが、そこには謎の影が
付き纏う。
その女性研究員は、先にアヴァロン社を引退した研究者の身
辺を洗っていたらしい。そしてそこから人類の未来を揺るが
す陰謀が明らかにされて行く。
この捜査官の声を新007のダニエル・クレイグが演じ、他
に『ブレイブハート』のキャサリン・マコーミック、『エイ
リアン』のイアン・ホルム、『ブラジル』のジョナサン・プ
ライスらが声の共演をしている。
因に本作では、モーション・キャプチャーを利用したという
ことだが、『モンスター・ハウス』等のように声優が演技も
しているものではなく、演技は他の俳優が担当して、声だけ
を彼らが吹き込んでいるものだ。
50年後のパリの風景などはCGIで描かれ、そこに俳優の動
きをキャプチャーしたキャラクターが填め込まれる。そこを
カメラ(視点)が自在に移動して映像が演出されており、こ
れはモーション・キャプチャーの威力と呼べる。
床が透通しの空中回廊に設けられた会社幹部の部屋など、現
実には不可能な背景も登場してアニメーションの楽しさも満
喫させてくれる。このモーション・キャプチャーやその後の
映像処理には、IBMが全面協力してコンピュータ等の機材
を提供したとクレジットされていた。
『シン・シティ』や『スキャナー・ダークリー』など、実写
かアニメーションか区別の付き難いものが増えてきたが、そ
の中では間違いなくアニメーションと言える作品。でも、今
後この手の作品が増加すると、そろそろ線引きをしっかりし
てもらいたくなる。
なお本作は、昨年アヌシー国際アニメーション映画祭でグラ
ンプリを受賞。アメリカではアカデミー賞長編アニメーショ
ン部門の選出リストにも入っていた。北米地区はディズニー
が配給権を獲得し、ミラマックス名義で公開されたようだ。
『暗黒街の男たち』“Truands”
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02月28日(水)
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