ID:47635
On the Production
by 井口健二
[460327hit]
■Movies−High 7
『恋慕』
3月3日に雛人形の前で自殺することを決めた女性の物語。
テーマ自体が誉められたものではなく、多少構えて見てしま
ったが、雛段の緋毛氈とその前にいる豪華な和装の女性とい
うヴィジュアルは強烈な作品だった。ただ、その映像の強烈
さの中で、ドラマがそれに対抗し切れていない感じがした。
その自殺志願者を説得する会話劇が進むものだが、劇として
はもっと強烈なものが必要だったのではないか。特に豪華な
その衣装を乱れさすような修羅場がもっと強烈にあったら、
それなりの評価が出来たと思う。映像の強烈さが見事なだけ
に、劇がおとなしく感じられてしまった気がする。逆に、こ
のヴィジュアルを除いて、ドラマだけで見てみたかった感じ
もした。
『愛してブラディマリー』
人を愛すると、その相手の身体に裂傷が生じるという女性を
主人公にしたスプラッター・コメディ。
今回ホラー系の作品はこれ1本のようだが、かまいたちテー
マはそれほど珍しい物ではないし、それを乗り越えて愛し合
うということでも、それだけでは新奇な感じはしなかった。
ただ、これをSMにしてしまうと見るに耐えなくなってしま
う訳で、それをその手前で留めているのは常識の持ち主と感
じる。でも、アマチュアの内なら。もう一歩踏み越えてしま
うのも可能性として認められるのではないかという感じだ。
今、僕が日本のジャンル映画の監督で一番認めているのは、
園子温と松尾スズキなのだが、この2人の強烈さを継げる作
家の誕生が見てみたいものだ。
『ゴーゴー☆TOILET』
その小学校の男子学童の間にはトイレで大便をしてはいけな
いというルールがある。しかし、平然と大便をする同級生が
現れて…
最近何かと話題のいじめの問題を見事に描いた作品という感
じがした。しかもそれが極めて前向きに描かれているところ
に好感が持てる作品だった。撮影は、すでに廃校になってい
た学校を借りて、それを再生して行ったということだが、そ
の美術的なセンスも見事だった。すでにコンテストなどで、
優秀賞やグランプリも受賞している作品のようだが、全く異
論をはさむ余地がないものだ。子役たちの演技も自然で良か
ったし、言うことなしの作品だろう。
『黄昏モメント』
恋人からプロポーズされた女性。しかし彼女には母親との関
係にトラウマがあり…。そんな彼女の前にママと呼ぶ少女が
現れる。
母親との確執を描き、女性の成長を促すファンタシーという
感じの作品だが、全体的に印象が弱い。多分物語も整理され
ていなくて、監督の思いばかりが先走っているのだろうが、
途中の主人公の妊娠などの問題も明確に語られていないし、
見ていて混乱ばかりしてしまった。資料を見ると脚本が表記
されていないようで、そういう作品は他にも何本かあるが、
結局どの作品も纏まりのなさを感じたものだ。最近、プロで
もそういう造り方をして持て囃されている監督がいることは
確かだが、それを編集だけでまとめるのは至難の技。やはり
映画は、脚本をしっかり作ってから製作してもらいたいもの
だ。
以上、13+1作品への感想とします。
なお、今回、クリエイターコースのプログラムは、Aが男性
監督とBが女性監督に分けられていたようだが、そうする意
味があったのかどうか疑問に感じた。
また、この記事を書きながら一昨年の9月29日付で掲載した
前回の記事を読み返してしまったが、前回に比べて、今回は
全体的に監督のやりたいことが伝わってこなかった感じがし
た。もちろん制約はいろいろあるだろうが、やはりやりたい
ことの目標点はしっかりと持っていないと、ただ作るだけで
は思いが観客に届かない。というか、その届けたい思いが正
確に感じ取れない、良く言って未完成な、宙ぶらりんの作品
が多かった気がしたものだ。
その中では、すでに賞を取っている評価の後追いになるが、
『ゴーゴー☆TOILET』『ドラッグストアへようこそ』
『蹉跌』の3本は、一頭地を抜けていると感じられた。他の
[5]続きを読む
01月10日(水)
[1]過去を読む
[2]未来を読む
[3]目次へ
[4]エンピツに戻る