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On the Production
by 井口健二
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■シリアナ、ロード・オブ・ウォー、エミリー・ローズ、ルー・サロメ、メルキアデス・エストラーダ、ディック&ジェーン、チキン・リトル
公開されるということだが、僕は当時の上映を見ていないの
でそれに関する判断は出来ない。しかし、今回の上映でもぼ
かしが複数箇所入るのだからまあ相当の作品ということだ。
と言っても、物語は19世紀末のヨーロッパを舞台にした極め
て文学的なもので、特に自由に生きることを望む女性ルー・
サロメと、彼女に振り回されるニーチェ、パウル・レーらの
男性たちの構図は現代にも通用して面白いものだった。
また、後半に登場するほぼ全裸の男性2人による神と悪魔の
ダンスや、その他の映像にも注目できるシーンは数多くあっ
たように感じられた。さらにローマ、ヴェネツィアなどの遺
跡や町の風景も美しく捉えられていたものだ。
ただし音響は、大時代的な音楽や口元の合わない音声など、
1977年と言えばアメリカでは『スター・ウォーズ』の年に、
イタリアではまだこんなものだったのかと意外な感じもした
が、それも歴史として捉えておきたいところだ。
なお、サンダは1951年のパリの生まれで、ヴォーグ誌のモデ
ルなどを経て1968年に映画デビュー。この作品の当時はイタ
リアに住んでイタリア映画に出演していたが、前年にはカン
ヌで女優賞も受賞している。
一方、本作と同じ1977年にはロジャー・ゼラズニー原作の終
末SF『地獄のハイウェイ』を映画化した『世界が燃えつき
る日』にも出演。本作は、その頃の作品ということだ。
因に、最近のサンダは舞台に専念しているということだが、
今回の作品は26歳の時のもので美しさも絶頂の頃とは言え、
見ていてまた映画にも出てもらいたいと感じられたものだ。
2000年の『クリムゾン・リバー』には尼僧の役でゲスト出演
していたようだが、本格的な復帰を期待したい。
 
『メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬』
      “The Three Burials of MELQUIADES ESTRADA”
『アモーレス・ペロス』のギジェルモ・アリアガの脚本を、
トミー・リー・ジョーンズの監督・主演で映画化した作品。
不慮の死を遂げた友人のメキシコ人の遺体を彼の故郷に埋葬
するため、遺体を乗せた馬を引いて国境を渡る老カウボーイ
の物語。
舞台は現代。初老のカウボーイ=ピートは、ふと知り合った
エストラーダを不法入国者と知りつつ友として付き合ってい
た。そんなピートにエストラーダは家族の写真を見せ、自分
が死んだら遺体を故郷に埋葬してくれるように約束させる。
自分の方が年上だからそんなことにはならないと言いつつ、
その約束に応じたピートだったが、その数日後エストラーダ
は何者かによる射殺体で発見される。そしてその犯人は割り
出されるが、保安官はそれ以上の追求をしようとしない。
その事態にピートは、犯人を拉致し、犯人にエストラーダの
遺体を掘り起こさせて、犯人と共に国境を越え故郷として教
えられたメキシコの村を訪ねることにするが…
この物語を、最初にエストラーダの遺体が発見されるところ
から始めて、その後に犯人が町に引っ越してくるところ描く
など、時間軸を交錯させて描いて行く。しかしその展開は、
理路整然として混乱がない。
確かに最初は多少戸惑う感じもするが、判り始めると、その
時間軸を入れ替えた意味がいろいろな点で活かされているよ
うにも感じられる。特に犯人の行動が、エストラーダを殺し
た後なのか、それとも前なのかといった辺りが、物語に実に
微妙な陰影を与えている。
この構成の巧みさは、脚本家アリエガの特徴とも言われてい
るようだが、トリッキーでありながらそれが自然に感じられ
る上手さには脱帽させられた感じだ。そしてそれをジョーン
ズの演出が見事にフォローしている感じの作品だ。
ジョーンズは、映画は初監督のはずだが、その前にTVムー
ヴィは1作手掛けているということで、演出自体はかなり手
堅い感じのものになっている。またこの作品は、今年のカン
ヌ映画祭で男優賞と脚本賞に輝いたものだ。
背景は現代だが、友情のために全てをなげうつ主人公の生き
様などは、正に西部劇という感じのもので、久しぶりに男の

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12月14日(水)
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