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On the Production
by 井口健二
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■ツィゴイネルワイゼン/陽炎座/夢二、映画(窒息)、マイ・ファミリー自閉症の僕のひとり立ち、アダミアニ祈りの谷
台詞無し、モノクロの画面というのはそれなりに話題性はあ
りそうだが、それ以上の何かを引き出すというのには展開が
少し弱いかな。
実は主人公が就寝中に黒ずくめの人物に襲われるという悪夢
があって、その辺で少し捻りがあるかなと思わせたが、単な
る予知夢という解釈だったのかな。これらをもう少し掘り下
げても良かったような気もした。
結局、そういった現代に何かを反映させる仕掛けがないと、
ハイそうですかで終わってしまう感じがして、全体として観
客に訴え掛けるものが少ない感じになる。逆に単純な娯楽と
するには、インパクトに欠けるかな。
タイトルもクレジットもなしという構成には何か意図がある
のかとも思ったが、それも意味が見当たらなかった。文字が
ない世界ということなのかもしれないけど、それも底が浅い
感じを否めなかった。
公開は11月11日より、東京地区は新宿K's cinema他にて全国
順次ロードショウとなる。
『マイ・ファミリー自閉症の僕のひとり立ち』
“Kees vliegt uit”
1998年発表の“Trainman”以来、自閉症患者ケース・モンマ
の生活ぶりを四半世紀に亙って撮り続け、2014年発表の前作
ではオランダで 450万人を動員したというモニーク・ノルテ
監督による2023年本国公開のドキュメンタリー。
本作の始まりは自閉症患者のケースが42歳の時。両親の老い
を感じ取ったケースは自立することを考え始め、実家の近所
に一軒家を建ててその壁の色や内装なども自らの意思で決め
て行くが…。
その他には両親との連絡役に雇われた女性とのトラブルや、
健常者である兄夫妻との話し合いなど、様々なケースを取り
巻く状況が描かれて行く。その中にはノルテ監督に信頼を寄
せている様子も伺える。
さらにその間にはケースの創作活動や、鉄道模型に熱狂する
姿なども描かれる。そしてそんな状況が続き、ケースが50歳
になり、両親が80代を迎えた現在、果たしてケースは自立す
ることができたのか?
正直に言って一家には相当の財力もあるのだろうけど、家も
建てて貰ってまあ安定した暮らしにみえる。しかしそんな中
にも将来の不安を感じるというのは、ケースの知能の在り方
にも興味が湧いた。
北欧に近いオランダならそれなりの福祉の充実とかもあるの
だろうけど、本作がその辺を描かないのはそれが当然だから
なのかな。それに対して日本の状況はどうなのだろう。そん
なことも考えてしまった。
なお本作のオリジナルは、EUフィルムデーズ2023にて『ケ
ースがはばたく日』の題名で上映されたものだが、その際の
上映時間は 105分。しかしそれはかなり冗長だったようで、
今回は監督との協議の末に82分の編集版での公開となる。
僕はオリジナルを観ていないので比較はできないが、実は本
作を観ていて、特に後半の展開がかなり緊張感のあるものに
なっていた。それが監督の意図かどうかは判らないが、状況
の抱える問題は明瞭化されているようにも感じられた。
世界の片隅の話ではあるけれど、全ての人間が考えなくては
いけない問題が描かれている作品でもある。特に日本の状況
も知りたくなった。
公開は11月25日〜12月8日、東京地区は新宿K's cinemaにて
ロードショウとなる。
『アダミアニ祈りの谷』
東ジョージア・コーカサス山脈の南麓に位置するパンキシ渓
谷、かつて「テロリストの巣窟」と呼ばれたその土地に暮ら
す人々の今を日本人の監督が追ったドキュメンタリー。
宗教は2つ。ジョージア正教とイスラム教。この内でイスラ
ム教徒の多くは19世紀に隣国のチェチェンから移住してきた
キストと呼ばれる人たちで、この人たちは戦士の血を引く民
族とも呼ばれ、勇猛果敢で知られていた。
とは言え正教徒が多数を占めるジョージアでは宗教間の融和
で社会は収まっていたのだが、1999年に始まった第2次チェ
チェン紛争で国を追われたキスト人がパンキシ渓谷に流入、
彼らはイスラムの教えに従った行動を始める。
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10月22日(日)
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