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On the Production
by 井口健二
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■メドゥーサ・デラックス、熊はいない、ハント、6月0日アイヒマンが処刑された日
従って本作では、感動よりも衝撃が優先される。その衝撃は
映画の終了後にすぐには席から立ち上がれないくらいのもの
だった。監督の思想は明らかで、2019年紹介作の時はそれな
りにオブラートに包まれている感じもしたが、今の監督には
そんなことは言ってられない心境なのかな。
監督以外の出演者はイラン出身だが国外追放の目に遭ってい
る女優のミナ・カヴァニ。『ある女優の不在』の続編的作品
でパナヒが共同脚本を務めた“Namo”に出演のバクティアー
ル・パンジェイ。映画の録音スタッフでもある『ある女優の
不在』に出演のレザ・ヘイダリ。
さらに“Namo”に出演のナセル・ハシェミ、『ある女優の不
在』に出演のナルジェス・デララム、『ある女優の不在』で
共同脚本を務めたヴァヒド・モバセリらが脇を固めている。
正直に言って本作に描かれている状況の切実さは日本人には
判り難い。しかしそれがこの映画の結末を招くほどの重大事
であることは理解できる。そんなイラン社会が抱える問題を
巧みに海外に知らしめる、その目的は見事に果たす作品と言
えそうだ。
公開は9月15日より、東京地区は新宿武蔵野館他にて全国順
次ロードショウとなる。

『ハント』“헌트(HUNT)”
2019年4月紹介『神と共に』や2021年放送の『イカゲーム』
などの俳優イ・ジョンジェが初監督に挑戦し、2022年のカン
ヌ国際映画祭ミッドナイト・スクリーニング部門など各地の
映画祭で上映、多数の受賞も果たした1980年代の韓国情報部
が舞台のアクション作品。
物語の背景は1979年の朴正煕暗殺事件から4年後、1980年の
光州事件から3年後の1983年。米国訪問中の全斗煥大統領に
暗殺未遂事件が発生し、韓国の安全企画部(旧KCIA)内部では
北朝鮮へ情報漏洩の疑念が高まる。
そこで安全企画部の部長は海外次長のパクと国内次長のキム
に直々の調査指令を下すが…。2人の間には朴正煕暗殺事件
の捜査での因縁があった。それでも互いに競い合いながらの
調査が開始される。
しかしそこには、独裁色を強めて強硬路線に走る全斗煥への
反発や北朝鮮からの巧みな接触など様々な思惑が絡み付く。
そして物語は、韓国部隊の北への侵攻やラングーン事件など
虚実を織り交ぜて壮大なスケールで展開される。
イ・ジョンジェは監督と共にパク次長を演じ、キム次長には
2005年7月紹介『私の頭の中の消しゴム』などのチョン・ウ
ソンが扮している。24年ぶりの共演という2人の対決はなか
なかの見ものだ。
他に2019年11月紹介『スピード・スクワッド』などのチョン
・ヘジン、『イカゲーム』などのホ・ソンテ、モデル出身で
本作で新人賞受賞コ・ユンジョン、2018年7月紹介『1987』
などのキム・ジョンス、2022年4月24日付題名紹介『モガデ
ィシュ』などのチョン・マンシクらが脇を固めている。
映画の中では1980年代の東京での銃撃戦なんてのも登場し、
これは凄いと思わせるが、その再現性はまずまずかな。歩行
者用信号機も当時の感じだし、良くやっているものだ。まあ
台詞は少し覚束ないけど。
それにしても初監督の俳優によくぞここまでやらせたという
のも凄いところで、これができるのが韓国映画の底力と言え
るのかな。銃撃戦にカーアクション、CGIを駆使した大爆
発まで、かなりのベテラン監督でも大変そうな展開だ。
それをイ・ジョンジェ監督はしっかりとものにしたという感
じの作品だ。
公開は9月29日より、東京地区は新宿バルト9他にて全国ロ
ードショウとなる。

『6月0日 アイヒマンが処刑された日』“June Zero”
元ナチスの戦犯で、戦後逃亡の末に1960年にモサドによって
確保、イスラエルに連行されて翌年裁判、死刑の判決が下り
処刑されたアドルフ・アイヒマンの死に纏わる秘話を描いた
作品。
アイヒマンは絞首刑の末に火葬され、その遺灰は墓が聖地と
なることを怖れた当局の判断でイスラエル領海外の地中海に
撒かれたが、そもそもイスラエルでは死刑はまれであり、さ
らに宗教的に火葬もありえなかったという。

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07月16日(日)
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