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On the Production
by 井口健二
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■ワイルド・スピード/ファイヤーブースト、ナチスに仕掛けたチェスゲーム、世界が引き裂かれる時、Gメン
校は彼が記憶したはずの口座番号を聞き出そうとする。それ
を拒否する主人公はとあるホテルに監禁され…。
そこから想像を絶する拷問が始まる。それは肉体を傷つける
のではなく、主人公を世間から隔絶させることで、精神的に
追い詰めようとするもの。そんな中で主人公は偶然チェスの
教本を手に入れ、それは彼を思わぬ運命へと導く。
出演は2016年4月紹介『帰ってきたヒトラー』でヒトラーを
演じていたオリヴァー・マスッチ。他に2022年版の『西部戦
線異状なし』でBAFTA 最優秀助演男優賞にノミネートされた
アルブレヒト・シュッヘ。2010年9月紹介『白いリボン』な
どのビルギット・ミニヒマイアーらが脇を固めている。
監督は2010年1月紹介『アイガー北壁』などのフィリップ・
シュテルツェルが担当した。
同じ原作からは1960年にクルト・ユルゲンス主演による映画
化もされているようだが、その他にも舞台化やオペラ化もさ
れ、さらにはグラフィックノヴェルとしても出版されている
とのこと。
正直に言って僕は原作は知らず、邦題だけを見てナチスに対
する機密作戦みたいなものかなと思っていたのだが、物語は
もっと深く観客の心を抉るような作品になっていた。正しく
観終って直には席を立てなかったくらいのものだ。
それは恐らく侵略戦争の現実を、侵略された側から巧みに描
き切ったものだし、今ウクライナで起きていることかもしれ
ない物語ということだ。監督は「原作者の知らなかった未来
を我々は知っている」と発言しているが…。
公開は7月21日より、東京地区はシネマート新宿、大阪地区
はシネマート心斎橋他にて全国順次ロードショウとなる。

『世界が引き裂かれる時』“Клондайк”
上の作品に続いての反戦映画で、こちらはモスクワの侵略に
直面しているウクライナの作品。2020年にウクライナ国内で
撮影され、昨年のサンダンス映画祭、ベルリン国際映画祭な
どで受賞し、全世界では41冠に輝いている。
物語の舞台は最近のニュースでもよく耳にするウクライナ・
ドネツク州。ヒマワリ畑や草原の広がる場所にウクライナ人
の夫婦が暮らしている。その妻は妊娠しており、体形は臨月
も近いと思わせるものだ。
一方、夫は隣人に貸した車を取り返そうと草原を走り回って
いるが、どうやら車は親ロシアの分離主義者の組織に徴発さ
れているようだ。そんな夫婦の家に砲撃の誤射が着弾し、家
の壁が吹き飛んでしまう。
それでも夫には組織への加入が求められ…。やがて夫婦は否
応なしに親ロシア派と親ウクライナ派の対立に巻き込まれて
行く。そして2014年7月17日、マレーシア航空17便の撃墜事
件が発生する。
実話に基づくとされる脚本の執筆と監督は、キーウ国立映画
大学で学んだ後にポーランドのアンジェイ・ワイダ映画監督
学校を卒業したというマリナ・エル・ゴルバチ。女性監督に
よる長編第5作とのことだ。
主な出演者はオクサナ・チェルカシナ、セルゲイ・シャトリ
ン、オレグ・シェルビナ。
親ロシア派と親ウクライナ派の対立というのは、傍目からは
なかなか判り難いところがあるが、本作を観ているとその複
雑な様相も少し判りかけたかなという感じにはなる。でも実
際はもっと複雑なのかな。
でもまあ親ロシア派の横暴振りなどはよく理解できるし、そ
の辺が監督が描きたかったポイントでもあるのだろう。そん
な監督の思いは良く伝わってくる作品だった。そしてその現
実は今も現地では続いているものなのだろう。
正直に言って戦争の愚かしさを描いた作品は今までにも何本
もあったが、本作ではシュールとも言える意味不明の対立の
様相で、これが現実と思うと、それは正に狂気の沙汰と言い
たくなるようなものだ。
そんな現実が見事に描かれた作品とも言える。なお出演者や
スタッフの多くは、現在は前線で戦いに身を投じているそう
だ。
公開は6月17日より、東京地区は渋谷のシアター・イメージ
フォーラム他にて全国順次ロードショウとなる。

『Gメン』

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05月21日(日)
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