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On the Production
by 井口健二
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■エスター/ファースト・キル、The Son 息子、ndjc:若手映画作家育成プロジェクト 2022
果、息子を若妻とのマンションに引き取ることにするが…。
当初は若妻や赤ん坊とも上手く行きかけた息子は、再び学校
へ行かなくなってしまう。この事態に主人公は息子の真意を
聞き出そうとするが。
自分自身が娘と息子と育ててきた身からすると、この父親の
心情は痛いほど伝わってくる。事実息子には本作と同じよう
なことを言われた記憶もあるし、それを大過なく切り抜けら
れたのは、その時のいろいろな状況の巡り会わせだったのか
もしれない。
そこで一歩間違えていたら、こんな事態にもなっていたのか
な? そんな恐怖も感じさせる作品だった。
共演は、2018年『マリッジ・ストーリー』でオスカー受賞の
ローラ・ダーンと、2014年6月紹介『アバウト・タイム』や
『ミッション:インポッシブル』『ワイルド・スピード』に
も出演のヴァネッサ・カービー。それにメルボルン出身で短
編映画やTVシリーズに主演しているゼン・マクグラス。
そして『ファーザー』でオスカー受賞のアンソニー・ホプキ
ンスも登場する。
正直に言って敏腕弁護士だの政界進出だのと書くと別世界の
話のように見えるかもしれない。しかし多様性の進む現代社
会においてこの息子の焦燥や喪失感は普遍的なようにも見え
るし、それに対処できない父親の姿は誰にでも起こりうる話
と言える。
まあ子供がいなければこういう事態には陥らない訳だが、こ
ういうことの起こりうる社会が、現代の少子化を招いている
のかな。そんなことも考えさせられてしまう作品だった。
公開は3月17日より、東京はTOHOシネマズ シャンテ他にて
全国ロードショウとなる。

ndjc:若手映画作家育成プロジェクト 2022
2019年2月と2020年2月にも紹介した「ndjc:若手映画作家
育成プロジェクト」の最新版を鑑賞した。と言っても今回は
合評会に参加できたのではなく、作品だけをオンライン試写
で観たものだ。
「うつぶせのまま踊りたい」
1995年生まれ、初監督作の『光の輪郭と踊るダンス』がゆう
ばり国際ファンタスティック映画祭2021「ゆうばりホープ」
に選定された岡本昌也監督作品。
社会に適応しながら自由を求める女性と、自らの過去に囚わ
れながらも自由奔放に生きようとする女性。そんな2人が出
会い、定型と自由律の詩作を通じて自らを変えようともがい
て行く。出だしから出会いまでの演出や映像はなかなか鮮烈
に見えたが、テーマが見え始めた辺りから何となくステレオ
タイプになってしまった。もっと斬新な切り口で定型と自由
律の対立を描き切って欲しかった。
「ラ・マヒ」
神奈川県出身で韓国ソウルに4年間在住、韓国インディーズ
映画に嵌って映画美学校に入学。短編作品『泥』が様々な映
画祭にて入選した他、アマチュアプロレスで後楽園ホールの
マットに立ったこともあるという成瀬都香監督作品。
同棲(?)カップルが暮らす部屋に突然轟音が響く。びっくり
して飛び出した主人公は近所に女子プロレスの道場を発見、
そこでは彼女の小学校時代の同級生が率いる団体が練習を繰
り広げていた。そして同級生の一途な姿を見る内、その魅力
に取り込まれた主人公は…。有り勝ちな話かもしれないが、
実体験に基づいていそうなエピソードや展開が安心感を持っ
て観ていられる作品だった。
「デブリーズ」
1998年東京都生まれ、幡ヶ谷の古民家「凡蔵」を制作拠点と
し、短編作品『ダボ』がSSFF & ASIA 2022に入選した牧大我
監督作品。
スクラップ工場でCM撮影をしていた監督とカメラマンが、
突然生じたワームホールで異世界に飛ばされる。そこには顔
や全身にスクラップを纏った住人がおり、住人たちは無為と
思える生活を送っていた。最初のeveryday debris-day とい
う駄洒落はなかなかだったが、異世界に行ってからが凡庸か
な。造型などに多少の面白さはあるが、もう少し観客に何か
を思考させる仕掛けが欲しかった。
「サボテンと海底」
1995年神奈川県出身、多摩美術大学で舞台衣装や特殊小道具
などのデザイン・製作を学び、東京藝術大学大学院に進学。

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02月12日(日)
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