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On the Production
by 井口健二
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■少女は卒業しない、有り触れた未来、彼岸のふたり
10年前の自然災害とは東日本大震災のことだが、映画はあえ
てそれを前面に出すのではなく、しかし重要なテーマとして
巧みにそこに横たわる問題を描き出して行くものだ。それが
直接の被災者ではない我々の心にも響き渡る。
それは特に手塚理美が演じる祖母の台詞に集約して描かれる
が、それだけではないより多くの人々の心を奮い立たせる、
そんなメッセージが込められたものになっている。そしてそ
れらが重層して描かれる結末。
ここではバンドの演奏、舞台での演技者たちの台詞回し、そ
して和太鼓の響きなどが重なって、その映像効果や音響効果
が正に映画の醍醐味とも言える感動の渦に観客を引き込んで
くれる。これぞ映画という感じの感動だった。
なお本作は、齋藤幸男著「生かされて生きる―震災を語り継
ぐ」という書籍を原案としているものだ。また題名はWミー
ニングのように取れるが、検索すると「ありふれた」の漢字
表記はこれだそうで、正に「有り、触れた、」物語なのだ。
公開は2023年3月3日から宮城県で先行上映の後、3月10日
より全国ロードショウとなる。
現代に暮らす人の心に響くこの映画を、ぜひ多くの人に観て
貰いたい。
『彼岸のふたり』
大阪府出身で早稲田大学卒。在学中に映画デビューも果たし
たという俳優の北口ユースケが、大阪府堺市を舞台に室町時
代に当地に実在した遊女「地獄大夫」をモティーフに描いた
幼児虐待をテーマとした初監督作品。
大阪で幼児虐待と言うと、2019年10月27日付[JAPAN CONTENT
SHOWCASE]で紹介『ひとくず』を思い出すが、本作は虐待そ
のものではなく、その後のトラウマとも言える母子の関係が
描かれる。
そこでは毒親をようやく逃れて施設で育ち、成人した女性が
再び訪ねてきた母親の毒牙にかかる。それはおそらくこれが
毒親の現実だろうと思わせるものだ。そんな中で事態はどん
どんエスカレートして行くが…。
映画では主人公の前に現れるイマジナリーフレンドのような
存在が主人公の心象を代弁し、主人公の葛藤なども判り易く
提示される。まあここまでしなくてもいいかなとは思うが、
この辺は監督の親切心なのだろう。
ただし、映画の結末に関しては賛否の両論が分かれそうだ。
それはそこまでの流れからこれはないととも言える展開で、
これには納得できないという声も多く聞こえてきそうな感じ
もしてくる。
上記の親切心のある監督からすれば、もっと明確に結末は描
くべきようにも感じる。でもそれはどう描くべきか、テーマ
の深刻さから考えてそれがどのような結末であっても万人の
納得は得られないかもしれない。
そこで明確に描き切らないことで余韻を残す、観客の解釈に
委ねることがベストと監督は判断したのかもしれない。観客
の胸の中にもやもやを残すことが監督の狙いと考えたくなる
作品だった。
出演は、本作の企画制作も行ったOSK出身の桜あかりが主
宰するSAKURA entertainment所属の朝比奈めいりと、2008年
『実録・連合赤軍あさま山荘への道程』で永田洋子役の並木
愛枝。
他に2009年2月紹介『鴨川ホルモー』などに出演のドヰタイ
ジ、関西中心で活動するダンス&ヴォーカルユニットYES!に
所属の寺浦麻貴、子役で2018年11月18日題名紹介『あの日の
オルガン』などに出演の徳網ゆうならが脇を固めている。
公開は、大阪ではすでに先行で行われており、東京は2023年
2月4日より池袋シネマ・ロサ他にて全国順次ロードショウ
となる。
12月11日(日)
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