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On the Production
by 井口健二
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■復讐は私にまかせて、川っぺりムコリッタ、激怒
ときは』から自身で「第2章」と称しているようだが、確か
にそれまでの作品とはテイストが一変している。しかしそれ
以上に人間を深く見つめていると言えるだろう。
因に江口のりこと田中美佐子は前作に引き続いての出演だ。
ファンタスティックな要素もいろいろある作品だが。正直に
言って、作品全体に流れる死生観みたいなものが少し重苦し
くも感じられる。まあそれが監督の狙いなら仕方がないが、
全体はコメディだし、ちょっと気になった。
ただマイノリティというか、社会弱者の人々に向ける目の暖
かさは前作同様で、この辺が監督自身の言う「第2章」なの
だろう。しかも前作より裾野が広がった感じで、これはもっ
と追及していって欲しいものだ。
なお題名の「ムコリッタ(牟呼栗多)」とは仏教における時間
の単位で、1/30日の時間=48分間だそうだ。最小単位の刹那
よりは長いが、人生から観れば一瞬かも知れない時間だ。
公開は9月16日より、東京は新宿ピカデリー、UPLINK吉祥寺
他にて全国ロードショウとなる。

『激怒』
1969年生まれ、早稲田大学文学部除籍で、映画評論や字幕翻
訳、ポスターアートなども手掛けるという高橋ヨシキ脚本・
監督による長編デビュー作。なお本作では2020年1月12及び
19日紹介『AI崩壊』などに出演の川瀬陽太が主演及び製作
も務めている。
物語の背景はニューヨークの世界貿易センタービルが崩壊し
ていないパラレルワールドなのかな? 川瀬が演じるのは、
とある町の警察本署に勤務する中年刑事。いわゆるステレオ
タイプの刑事で、勤務中にその手の連中とつるんだり、捜査
のやり方も強面だ。
ところがその町に奇妙な空気が流れ始める。それは「安全・
安心」をスローガンに掲げる町民運動で、その流れもあって
主人公は暴力刑事の名の下に海外の矯正施設に送られてしま
う。そして数年が経ち、治療を終えた主人公は元の町に帰っ
てくるが…。
矯正施設の描き方は1971年の映画『時計じかけのオレンジ』
へのオマージュなのかな。暴力を矯正するというテーマだか
ら当然だが、それならもっと突っ込んで、オマージュを明確
にした方が良かったような気もする。昨今だとパクリと言わ
れることを気にしたのかもしれないが。
それに映画前半の刑事がステレオタイプなのは理解するが、
後半の町民運動の様子もステレオタイプに描いたのは勿体な
い。ここには監督のアーチストとしての心意気が発揮されて
欲しかった。本作で描くべきはコロナ禍でのマスク警察の様
な社会現象への問題提起にも思えたので。
いずれにしても、映画としての体裁はそれなりに取れている
が、全体として何か食い足りない。映画へのシンパシーは僕
に近いものも感じるので、もっといろんな映画の要素を取り
入れて、暴力に関しての映画表現の極致みたいなものを感じ
させて欲しかった。
共演は、プロ社交ダンサーとしてレッスン講師も行っている
という彩木あや、2018年5月13日題名紹介『菊とギロチン』
などの小林竜樹、2012年3月紹介『サイタマノラッパー』な
どの奥野瑛太。
公開は8月26日より、東京は新宿武蔵野館、大阪はテアトル
梅田他にて全国順次ロードショウとなる。

06月26日(日)
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