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On the Production
by 井口健二
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■ワン・セカンド 永遠の24フレーム、ぼくの歌が聴こえたら
そこにはフィルムをプロジェクターに掛ける手順から、ある
事情で砂漠の砂にまみれてしまったフィルムを洗浄して復活
させる様子。さらにはトラブルで燃え上がるまで、フィルム
に対する愛情がふんだんに盛り込まれていた。
特にフィルムの洗浄はイーモウ監督の実体験にも基づいてい
るそうで、そこで洗浄に使う蒸留水の入手方法などは、思は
ず手で膝を打つような納得の展開が描かれていた。正に映画
ファンへの贈り物だろう。
さらに復活したフィルムの状態が、これも痛々しくも感動的
に再現されていた。これがディジタルだと1か0かの二択し
かないのだから、このような感動は描けないのではないか、
そんなことも考えてしまった。
そしてもう一点、映画の後半では上映中の映写室内が写され
るが、ここではフィルムが流れるように動いている様子が描
写されている。これは肉眼で見ていればこの通りなのだが、
これを撮影するとこうはいかない。
それは毎秒24コマで動くフィルムを24コマで撮影すると動き
が同期して、コマが止まっているように写ってしまうのだ。
そこで最初は撮影のコマ数が違っているのかとも考えたが、
映画のデータベースで確認したところ、使用されたのはRed
DSMC2 Monstro VVとSony CineAlta Venice。いずれも撮影は
24コマが基準のものだった。
つまりここではフィルムが流れるように描写するための工夫
が施されていたということなのだ。その工夫がどんなものな
のかにはいくつか手法は思い付くが、こんなちょっとしたこ
とにも監督の思いが伝わる作品だった。
フィルム世代の映画ファンは必見の作品。
公開は5月20日より、東京はTOHOシネマズシャンテ他で全国
ロードショウとなる。

『ぼくの歌が聴こえたら』“더 박스”
K-POPの人気グループEXOでラッパー及びサブヴォーカルを務
めるチョンヨルの主演による2021年本国公開の韓国映画。
チョンヨルが演じるのは駐車場の管理小屋で秘かにギターを
弾きながら歌っていた若者。その歌声が、過去には受賞歌手
を育てたこともある音楽プロデューサーの耳に入ったことか
ら物語が動き出す。
実はそのプロデューサーは育てた歌手には逃げられ、今や破
産寸前。そんなプロデューサーが若者の歌声にほれ込み、一
躍売り出しを夢見て無理矢理契約を結ぶが、その若者は幼い
頃のトラウマにより人前で歌うことができなかった。
それでもプロデューサーは、冷蔵庫の梱包用の段ボール箱で
隠れ場所を制作し、その中で歌う手法を編み出すが…。10曲
歌う契約で始めた売込み計画は、彼が歌う度に次々にトラブ
ルを巻き起こす。
そして物語は、仁川から全州、光州、麗水、慶州、蔚山へと
ロード・ムーヴィ風に繰り広げられて行き、徐々に2人の思
いが変化して行く。
共演は、2016年に上野樹里が共演した『ビューティー・イン
サイド』などのチョ・ダルファン。脚本と監督は、舞台出身
で2018年平昌オリンピックの開会式演出なども務めたヤン・
ジョンウンの映画デビュー作となっている。
作品はチョンヨルの歌声が満載で典型的なアイドルと言える
かな。その楽曲も、前半は“Bud Guy”“What a Wonderfull
Word”“My Funny Valentine”など英語の洋楽中心で、それ
が後半は韓国語の歌中心になるのは意図的と思える。
とは言うものの、舞台が次々替わるのをロード・ムーヴィと
するには各地域との繋がりに深みがなく、無理矢理舞台を広
げた感じが否めなかった。これは韓国文化に詳しい人が見れ
ば何かあったのかもしれないが、僕には不明。
ただ前半では、各地に行く度にその地方の料理が登場して、
それが良い感じだったりもしたのだが…。その描写が後半は
ちょっと尻すぼまりになってしまう感じなのは、少し残念な
気もした。
そんな中で後半に登場するロマの文化を継承しているような
人々の描写は、意外性もあってよい雰囲気だった。出来れば
この部分をもっと膨らませて描いて欲しかった感じもしたも
のだ。
でもまあ、チョンヨルの歌声が各地の風景を背景に聴けるの

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04月10日(日)
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