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On the Production
by 井口健二
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■なんのちゃん(レ・ミゼ、在りし日の、ちむぐりさ、山の焚、衝動、子どもたちを、キスカム、馬三家、パラダイス・L、高津川、グリーン・L)
(ヴィクトル・ユゴー×スパイク・リーと称されるフランス
の現状を描いたドラマ作品。舞台はユゴーの小説にも描かれ
たパリ郊外のモンフェルメイユ。下層階級が暮らし、犯罪の
温床ともされるその町の警察に地方出身の警官が赴任する。
そして犯罪防止班(BAC)に配属された彼は先任の2人と共
に昼間のパトロールに出動するが…。ロマのサーカス団から
盗まれた仔ライオンの捜索など多少はユーモラスな描写に始
まって、ムスリム同胞団と麻薬売人組織、さらにロマと警察
など三つ巴、四つ巴の抗争が、子供たちの活躍も絡めてダイ
ナミックに描かれる。脚本と監督は同地出身のラジ・リ。俳
優として活動しながら地元の現状に迫るドキュメンタリーな
どを発表し、2017年制作の同名短編を基にした本作で長編デ
ビュー。カンヌ国際映画祭の審査員賞に輝いた。多民族国家
の実像を見事に描き出した作品だ。公開は2月28日より、東
京は新宿武蔵野館他で全国順次ロードショウ。)

『在りし日の歌』“地久天长”
(人口爆発で一人っ子政策が推し進められた1980年代から、
経済改革で貧富の差が拡大する2010年代までの30年間を背景
に、時代の流れに翻弄され続ける一夫婦を描いた中国映画。
1986年、夫婦の一人息子が死亡する。それは同じ日に生まれ
た同僚の息子と水遊びに出掛けての事故だった。しかし周囲
との軋轢に疲れた夫婦は移住を決意し、離れた土地で1人の
少年を家族とする暮しを続けたが…。実子でない少年との暮
しも容易ではなかった。こんな夫婦の変遷が、時代背景と共
に描かれる。脚本と監督は中国第6世代とされる2010年6月
紹介『北京の自転車』などのワン・シャオシュアイ。本作で
は夫婦を演じたワン・ジンチュンとヨン・メイにベルリン国
際映画祭の銀熊賞(俳優賞)のW受賞をもたらした。時間や場
所の交錯する編集には2007年1月紹介『バベル』を思い出し
たが…。主任編集者はタイ人のリー・チャタメティクールが
務めている。公開は4月3日より、全国ロードショウ。)

『ちむぐりさ 菜の花の沖縄日記』
(本土にいるとなかなか見えてこない沖縄の現状を、アルバ
イトをしながら現地のフリースクールに通った北陸出身15歳
の少女の目を通して描くドキュメンタリー。元々は北陸新聞
が沖縄に暮らす少女に連載コラムを依頼したのが始まり。そ
こで最初にヘリパッドの建設に揺れる東村高江区に向かった
彼女は、「おじぃ なぜ明るいの?」という記事を纏める。
そこには沖縄の基地を巡る様々な状況が綴られる。そして本
作では、フリースクールを卒業して故郷に戻り20歳になった
少女が再び沖縄を訪れ、辺野古で進む埋め立ての状況などを
取材する。それは反対派と容認派の意見を分け隔てなく聴い
て行くものだ。題名はウチナーグチ(沖縄言葉)で「誰かの心
の痛みを自分のものとして心痛める」という意味だそうだ。
作中に沖縄言葉で歌われる「悲しくてやりきれない」が、そ
の成立の思いも含め心に沁みた。公開は3月28日より、東京
はポレポレ東中野他で全国順次ロードショウ。)

『山の焚火』“Höhenfeuer”
(2007年9月紹介『僕のピアノコンチェルト』などのスイス
の監督フレディ・M・ムーラーが1985年に発表し、ロカルノ
国際映画祭でグランプリを獲得した作品。スイスアルプスの
山間でほぼ自給自足の暮しを続ける夫婦と姉弟の一家。弟は
聾唖でそれが負担ではあるが、一家は仲良く暮らしていた。
しかし些細なことで弟は家を飛び出し、さらに山を登った辺
りで1人暮し始める。そこには姉も通ってそれなりに安定し
た暮らしとなるが…。1940年生まれの監督が45歳で円熟期の
作品がディジタルリマスターにより再公開になる。上記の紹
介でも一筋縄ではいかない監督と書いたが、本作の後半の顛
末にはかなり唖然とさせられる。因に監督は『楢山節考』に
インスピレーションを受けたそうだ。なお今回は「マウンテ
ン・トリロジー」と称して1974年『我ら山人たち』、1990年
『緑の山』も同時上映される。公開は2月22日より、東京は

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02月02日(日)
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