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On the Production
by 井口健二
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■第32回東京国際映画祭<コンペティション以外>
二の腕にディジタル表示が浮かび上がり、金銭取引もそれで
行われている未来社会。しかし物語はそれとは関係なく、霊
魂の見える老人の50年間の人生が描かれる。しかも老人には
時間を行き来する能力もあるようだが…。老人に随行する若
い女性は、実は彼が殺した女性だった。そして老人は自らの
少年時代に立ち返り、彼が助けられなかった母親の運命を変
えようとする。いろいろなギミックは出てくるが、全体の物
語は意味がよく判らず。雰囲気では面白いと思えたが、評価
には迷う作品だった。監督のマティー・ドゥはラオス唯一の
女性監督で、プチョン国際ファンタスティック映画祭ファン
タスティック・フィルムスクールで学んだそうだ。

<アジアの未来部門>
『モーテル・アカシア』“Motel Acacia”
舞台は雪深い人里離れた場所に立つモーテル。若い男が途中
で拾った男と共にやってくる。そこで小屋に見えた建物は、
入ると広大な部屋が広がり、何やら怪しい雰囲気が漂う。そ
して同行の男には全裸でベッドに横たわることが命じられる
が…。そのベッドの表面が液状化し男が飲み込まれるなど、
いろいろと目新しい造形や演出も見られた。ただ肝心の脅威
の正体が、ジャングルから連れてこられたような描写はある
が実態は不明で、物語の全体的な流れは判るのだが、どこか
ディテールの詰めが甘いように感じられた。直上の作品もそ
うだが、雰囲気がありさえすれば良いという感じにも捉えら
れる。おそらく作者の頭の中にはすべてが構築されているの
だろうが、それが表現し切れていない感じもした。それでよ
しという風潮があるのも事実だが。

『ファストフード店の住人たち』“麥路人”
24時間営業の店で夜を過ごすホームレスの人たち。そこには
幼い子を連れた母親や、家出してきたばかりの若者もいる。
そしてスーツを着た男が彼らを取り仕切っていたが…。繁栄
する社会の陰で、その繁栄に取り残された人たち。そこには
様々な事情があり、それに絡んでいろいろな事件も起きる。
そんな本当の庶民の姿が描かれて行く。物語の流れから見て
1人ぐらいは死ぬのかなと思っていたら、その通りになった
のも衝撃だった。ただ映画の中で集合写真が撮られ、そこに
ある仕掛けが施されている。それを見ると結末にはある種の
救いも感じられるが、それとても悲しい結末に代わるもので
はなかった。アーロン・クォックとミリアム・ヨンの共演も
見どころとされる作品だ。

『夏の夜の騎士』“夏夜騎士”
1997年の夏を祖父母の一家と共に過ごした少年の成長物語。
舞台は中国の田舎町。両親が日本に行っている少年は、隠居
生活の祖父母と失業中の叔父、それに少し年長の従兄と共に
暮らしている。そんなある日、祖母の自転車が盗まれるが、
祖父は近くの盗品市場でそれを買い戻す。それを当たり前だ
とする社会に少年は反発し、従兄と2人で犯人探しを始める
が…。中国や台湾の映画でこのような成長物語は過去にも見
ている気がするが、まあ定番の作品というところかな。でも
過去に見た諸作の方がより鮮烈だった気がするし、本作はそ
んな中では特にポイントもない気もした。まあそれが現代風
ということなのかもしれないが。

<ワールド・フォーカス部門>
『サイエンス・オブ・フィクションズ』
              “Hiruk-Pikuk Si-Alkisah”
1970年代にニクソン大統領がマルコス大統領に「月の石」を
贈ったという事実を基に、アポロ11の月面中継が捏造でイン
ドネシアの奥地で撮影されたとする都市伝説を背景として、
その現場を目撃したために舌を抜かれた男が、それでも感化
されてスローモーションのような行動を続け、それがいつし
かパフォーマンスとして認められてしまうというお話。とは
言うものの、この作品も物語の展開がてんでんばらばらで、
正直に言って真っ当には理解できなかった。ただしこの作品
はヴェネチア映画祭2019ヴェニス・デイズ部門でスペシャル
メンションだそうだ。アポロ11の50周年ということで話題性

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11月07日(木)
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