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On the Production
by 井口健二
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■沖縄スパイ戦史、万引き家族、V.I.P. 修羅の獣たち(アーリーマン、ほたるの川、ニンジャバットマン、インサイド、クリミナル・タウン)
出演はリリー・フランキー、安藤サクラ、松岡茉優、樹木希
林。それにオーディションで選ばれた城桧吏と佐々木みゆ。
他に池松壮亮、緒形直人、柄本明、高良健吾、池脇千鶴らが
脇を固めている。
是枝監督は、2004年6月紹介『誰も知らない』にて当時14歳
だった柳楽優弥に日本人初・史上最年少での男優賞をもたら
し、2013年『そして父になる』では審査員賞を受賞したが、
本作で遂に最高賞に輝いた。
ただし、僕は2004年の男優賞は最高賞を贈れなかったことへ
の詫びと考えていたもので、従って同作と似た内容の本作に
は、贈られて当然だと思っている。因に2004年の最高賞には
『華氏911』が選ばれたものだが、この時は審査委員長の
アメリカ人監督が親友にプレゼントしたと考えた。
そんな訳で至極当然のパルムドールとも思うものだが、両作
を比べると2004年作が実話に基づくとされているのにファン
タシーのような雰囲気を持ち、今回はフィクションであるの
にリアルな感覚なのが面白くも感じられた。それは現実の厳
しさの反映なのかな?
是枝監督の作品は初期の頃からいろいろ観させて貰ってきた
が、僕は1999年の第2作『ワンダフルライフ』が今でも一番
好きだ。このセミドキュメンタリーの作品では、あるシーン
が全体のコンセプトとは合致しないのに敢えて使っている。
そんな優しさが本作にも通じる監督の良さだと思う。
2009年6月紹介『空気人形』などファンタスティックな作品
に素敵な感覚も持っている是枝監督だが、今回の作品をリア
ルに振った分、次回は『ワンダフルライフ』のような素敵な
ファンタシーも期待したい。
公開は6月8日より、東京はTOHOシネマズ日比谷、新宿バル
ト9他で全国ロードショウとなる。
『V.I.P. 修羅の獣たち』“브이아이피”
2011年2月紹介『生き残るための3つの取引』の脚本を手掛
け、その後は監督にも進出したパク・フンジョン脚本監督に
よる2017年の作品。
パク監督作品は2014年公開の『新しき世界』も観ているが、
どの作品も骨太で映画を堪能できた印象を持つ。しかも本作
は、前2作のPG12指定からは一歩踏み出したR-15指定となる
過激な映像も含まれる作品だ。
映画の開幕は現在の香港。欧米人の男から指示された韓国人
の男が標的が居るとされたアジトを襲い、容赦のない銃撃戦
を展開する。続いて物語は数年前の北朝鮮へと飛ぶ。そこで
は高級車に乗った若者が若い女性を拉致し、いたぶる様子が
写し出される。
そして舞台は現在より少し前のソウル郊外。そこでは若い女
性を狙う連続猟奇殺人事件が発生し、警察はてんてこ舞いに
なっている。しかもその捜査の中心だった刑事が突然自殺。
止む無く停職中だった刑事にその後任が命じられるが…。そ
の刑事はかなり型破りな男だった。
とまあ、ここまでは通常の警察物のように見えるのだが、先
の北朝鮮の描写から、事件は韓国国家情報院や米国CIAも
絡んだ国際謀略戦へと転がり込んで行く。それは緊張の続く
南北朝鮮間の裏側で繰り広げられる欲望と金に塗れた人非人
たちの物語だ。
背景にあるのは、1980〜90年代に多くいたとされる企画亡命
者。これは韓国国家情報院と米国CIAが結託して、北朝鮮
エリート高官の子女を韓国の亡命させたというもの。近年は
いないとされているが、当時はV.I.P.待遇で迎えられたとも
言われているものだ。
つまり元々が独裁国家で特別待遇だった高官の子女たちが、
韓国に来てどのような振る舞いをしたかは想像に難くない。
本作では韓国映画界が初めてそれを描いたと言われるものだ
が、それほどにタブーな存在だったようだ。そんなV.I.P.た
ちの常識を超えた所業が描かれる。
それは風土の異なる日本映画では描きようのない物語だが、
本作ではそれを映画として面白く、且つ興味深く観られる作
品に仕上げている。それはパク・フンジョン脚本監督ならで
はと言えるものだ。
出演は、2012年1月紹介『マイウェイ』などのチャン・ドン
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05月20日(日)
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