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On the Production
by 井口健二
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■第29回東京国際映画祭<コンペティション以外>
本作はシンプル且つオーソドックスで見応えもあった。監督
の今後にも期待したい。

《CROSSCUT ASIA部門》

『舟の上、だれかの妻、だれかの夫』
 “Someone's Wife in the Boat of Someone's Husband”
『ディアナを見つめて』“Following Diana”
共に中編のため2作同時上映となった作品。因に1本目は今
映画祭では数少ないファンタシー作品とされていた。
その1本目だが、内容的には異星人(異生物)との交流を描
いているようにも見えるが、作中に具体的な描写がある訳で
はなく。これをファンタシーとした識別力に感心した。でも
本当にそうなのかは疑問が残る作品だった。
2本目は、一夫多妻制が認められている社会の現実を描いた
もので、正直に言って今までは考えたこともなかった題材に
驚かされた。でもやはりそうなのかという認識もできたもの
で、世界の現状を知る上で貴重と言える作品だ。

『フィクション。』“Fiksi.”
金持ちの娘が家のしきたりに反発して家出、下層階級が暮ら
す街のぼろアパートで生活を始める。そのアパートには作家
志望の男性がいて、彼の案内で探訪したアパートには各階ご
とに様々な環境の人々が暮らしていた。
そしてその男性は、それらの住人たちをモティーフにした小
説を執筆していたが、ストーリーは出来たもののその結末が
書けないでいた。そんな中で映画は、現実ともフィクション
ともつかない少女の行動を描いて行く。
この作品もファンタシーのジャンル分けになっていたものだ
が…。僕の目からするとかなり苦しいかな。

『外出禁止令のあとで』“Lewat Djam Malam”
「インドネシア映画の父」と呼ばれるウスマル・イスマイル
監督が、1954年に発表した作品のディジタルリストア版。
1949年に勝ち取ったオランダからの独立戦争で英雄となった
男性が、その後の平時の生活に馴染めず苦悩する姿が描かれ
る。英雄だった男はそのままの正義を貫こうとするが、元の
戦友たちは新政権の許で甘い汁を吸い始めている。
インドネシアではこの後も政変が続き、そこでは2014年公開
『アクト・オブ・キリング』のような事態にもなるが、それ
を予感させる作品でもある。
なお本作は4Kリマスターだが、原版のフィルムはかなり損
傷が激しかったようで、その痕跡が随所に現れている。現状
ではこれがベストなのだろうが、さらなる修復も望みたいと
ころだ。

《ワールド・フォーカス部門》

『シエラネバダ』“Sieranevada”
一家の主の法要にいろいろな親戚が集まってくる。宗教はロ
シア正教なのかな? そこにはかなり面倒なしきたりもある
ようで、その手順と共に現代の風俗みたいなものも織り込ま
れ、さらに共産主義時代の残滓も影を落としてくる。
いやはやという感じの作品だが、これが現実なのだろう。そ
ういったものを観ることができるのも映画の面白さだ。ただ
舞台劇のような会話の連続で、上映時間173分の長丁場は、
体力的にはかなり大変だった。

『ゴッドスピード』“一路順風”
2013年10月27日付「東京国際映画祭」で紹介した『失魂』の
チョン・モンホン監督によるトロント映画祭出品作。主演に
マイケル・ホイを迎え、麻薬の運び屋に絡むロードムーヴィ
風アクションコメディが展開される。
『失魂』はかなりシュールなムードも漂う作品だったと記憶
しているが、本作は比較的オーソドックス。でもタクシーが
堂々巡りを始めたり、それなりの雰囲気は持っていたかな。
それ以上にはならなかったが。

『ネヴァー・エヴァー』“A jamais”
2013年2月紹介『コズモポリス』などのマチュー・アルマリ
ックの主演で、ふと目に留めた女性パフォーマーに惹かれて
行く映画監督の顛末を描いた作品。それにしてもフランス映
画のバイクシーンには独特の雰囲気があるものだ。
登場人物の死後に残された者の喪失感が見事に描かれた作品
で、これは正しくゴースト・ストーリーと呼べる作品だ。映
画祭はこの作品にこそファンタシーの識別子を付けて貰いた

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11月05日(土)
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