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On the Production
by 井口健二
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■宇宙戦艦ヤマト2202愛の戦士たち・記者会見、ニコラス・ウィントンと669人の子どもたち、92歳のパリジェンヌ
考える以上に多くいるようだ。
そんな人間の素晴らしさを感じることのできる作品だ。
しかし本作のウィントンには、戦後50年間も家族(妻)にも
自分の行為を話さなかったという事実がある。そこには彼が
数1000人分の申請を受けながら669人しか救えなかったとい
う自責の念に駆られていた感じがある。
特に9月出発の準備が整ったものの列車に乗る直前に戦争が
始まり、イギリスへの脱出の叶わなかった250人の子供たち
の多くは、その後に強制収容所で死亡したという。それが彼
の口を閉ざす要因でもあったのだろう。
その点を踏まえながら本作では、単に彼の偉業を称えるだけ
でなく、それが後に与えた影響も検証して行く。そこでは子
供たちやその子孫が学術やヴォランティア活動などに多大な
業績を生んでいることも紹介される。
そこにこそ彼の行ったことの意味が見えるようにも思えるも
のだ。そんな未来に繋がるドキュメンタリーが描かれた作品
だ。そこには2016年7月17日に題名紹介の『クワイ河に虹を
かけた男』にも通じる感慨が浮かんだ。
公開は11月26日より、東京はYEBISU GARDEN CINEMAほかで、
全国順次ロードショウとなる。

『92歳のパリジェンヌ』“La Dernière leçon”
今年のフランス映画祭で上映され、観客賞を受賞した作品。
元フランス首相の実母が実行した実話に基づく映画化。
その母親は一人暮らしだったが、寄る年波で身体の不調が続
いていた。そんな中で母親は遂にある決断をする。それは息
子と娘の家族が開いてくれた誕生日パーティの席で、「私は
2カ月後に逝きます」と宣言することだった。
その宣言に息子や娘は驚き反発するが、孫の若者はある程度
の理解を示したようだ。そして母親は思い出の残る様々な品
物の整理を始めるが…。どうしても理解できない息子と、あ
る程度の理解をしようとする娘の葛藤が続いて行く。
出演は、1932年生まれ1981年『愛と哀しみのボレロ』などの
マルト・ヴィラロンガ、2008年11月紹介『彼女の名はサビー
ヌ』の監督でもあるサンドリーヌ・ボネール、コメディ俳優
のアントワーヌ・デュレリ。
他に、2005年7月紹介『真夜中のピアニスト』などのジル・
コーエン、若手のグレゴアール・モンタナ、2014年11月2日
付「第27回東京国際映画祭」で紹介『1001グラム』に出てい
たザビーネ・パコラらが脇を固めている。
脚本と監督は女優でもあるパスカル・プサドゥー、共同脚本
として監督でもあるロラ・ドゥ・バルティーヤが参加。脚本
は、元首相の妹でフランス文芸家協会副会長も務めるノエル
・シャトレが実母を綴った著作に基づいている。
今年は先にドイツ映画の『君がくれたグッドライフ』や7月
紹介『世界一キライなあなたに』などがあって、自殺を嫌う
僕としては忸怩たる想いが続いているが。この傾向は数年前
から見え始めたもので、その背景も知りたいところだ。
それにしても、この映画の登場人物たちが介護施設をここま
で拒否する理由は何なのだろう。それは確かに介護を受ける
ということには人間としての尊厳の問題はあるのだろうが、
家族への迷惑を考えれば僕は許容できる。
実は僕の母親も90歳を超えて、痴ほうも患っている関係で施
設に入れて貰っているが、医者からは100歳まで生きると言
われて、それが本人として幸せなのかどうか。でも生きてい
てくれることが家族にとって幸せであることは確かだ。
正直に言ってしまえば、僕の母親の場合は痴ほうであるため
に本作のような悩みには煩わされずに済んでいる訳だが…。
僕自身も家族に迷惑を掛けないように、最期を迎えたいとは
思っている。
ただし自らの命を絶つことに対しては、僕は絶対反対の立場
を取る。仮に肉体的な苦痛があってもそれを緩和する手段は
あるものだし、余命を宣告されてもその期間は全うしたい。
その点ではやはり容認できない作品なのだと思う。
映画の公開は10月29日より、東京はシネスイッチ銀座他で、
全国順次ロードショウとなる。

この週は他に
『彼岸島 デラックス』

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