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On the Production
by 井口健二
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■ANNIE アニー、SHOAHショア/不正義の果て、プリデスティネーション
1995年にアウシュヴィッツ解放50周年として日本でも上映さ
れているものだが、何せ上映時間が9時間半という膨大な作
品で僕自身は観る機会を得ないままだった。その作品が製作
から30年を経て改めて日本公開されることになり、1日掛り
の試写を鑑賞した。
内容は、強制収容所で行われたナチスの悪行をナチスの手先
となって生き延びたユダヤ人や収容所にいた兵士たち、また
その周辺で暮らしていた人々の証言のみで纏めたもので、中
には収容所で将校に可愛がられていたという人物が当時の様
子を再現するシーンもあるが、ほとんどはインタヴューのみ
の映像で構成されている。
それが9時間半も続くというのは通常の感覚ではほとんど耐
え切れないものになりそうだが、流石にこの題材では観る方
も生半可な態度ではいられないし、途中3回の休憩は挟んだ
ものの、終始緊張した気持ちで最後まで観ることができた。
そしてその感想は、正しく凄いものを観てしまったというの
が率直な気持ちだった。
ただ今の時点で観ていると、近年数多くのホロコースト物の
ドラマ作品なども観る機会があり、強制収容所内の様子など
はある程度の予備知識もあったものだが、それにしても具体
的なユダヤ人抹殺のための手順や、それを効率よく行うため
の装置の改良などをつぶさに紹介されると、自分と同じ人間
がこれを行ったことに震撼としてしまうものだった。
正直、知識として持っていたアウシュヴィッツの印象と実際
に行われたこととの間には、今回この作品を観て認識を新た
にしても、尚且つまだ大きな隔たりがあるのだろう。そんな
現実に対する恐怖のようなものも如実に感じられた。正しく
人類の負の側面がこんなにも明白に描かれた作品は、恐らく
今後2度と生れないだろう。
正しく見る価値のある作品だった。
そして2本目の『不正義の果て』は、『SHOAHショア』のた
めに撮影されたが雰囲気が合わないとして採用されなかった
インタヴューに基づく作品。このフィルムはワシントンの博
物館に収められたが、一般人の視聴が制限されため、その事
実を遺憾としたランズマン監督が2013年に新たな作品として
発表したものだ。
その内容は、ナチスが対外宣伝用に準備したモデル収容所=
テレージエンシュタット強制収容所にあったユダヤ人評議会
で唯一人生き延びた議長=長老へのインタヴューを中心に、
この収容所を管理したアドルフ・アイヒマンの実像に迫って
いる。それは長老が戦前からの知己であるアイヒマンとの対
決を生々しく語ったものだ。
アイヒマンに関しては、その裁判が2013年9月紹介『ハンナ
・アーレント』でも描かれていたが、ユダヤ人女性哲学者が
受けた印象と長老の証言とにはかなり隔たりがあるようだ。
そのどちらが正しいかはここで判断することはできないが、
歴史認識の在り方として、この違いのあることは理解してい
なければいけないことなのだろう。そんなことも考えさせる
作品だった。
公開は2月に東京は渋谷のシアター・イメージフォーラムに
て、紹介した2本と『ソビブル、1943年10月14日午後4時』
という2001年の作品と共に、3週間の限定で行われる。
『プリデスティネーション』“Predestination”
アメリカのSF作家ロバート・A・ハインライン原作で、作
家の短編集の邦訳版では表題作にもなっている『輪廻の蛇』
“All You Zombies”の映画化。
内容的にはタイムトラヴェルもので、所謂ワンアイデアの作
品なので何を書いてもネタバレになる。従って原作を読んで
いる人には今更ともなる作品かな。でも、読んでいなくても
さほど複雑なタイムパラドックスではない。
しかしまあ、ある意味衝撃的な結末ではあるし、これはやは
り何も知らずに楽しんで貰いたい作品と言えそうだ。正直に
は「これはやばいんじゃない?」と思いながら観ているのが
正解だろう。
因に原作小説の原題はちょっと穿ち過ぎの感じで、邦題の方
が適切な感じもする。映画化の題名は神学用語で「運命予定
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01月11日(日)
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