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On the Production
by 井口健二
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■第27回東京国際映画祭《コンペティション部門》
イタリア北部の旧東欧圏との国境の河に築かれたダム。その
ダムと麓の村を舞台に、その地で発見された死体を巡って、
ダムの修理に訪れた若い技術者やクマの生態調査に来たとい
う女性らが過去の歴史に埋もれた出来事を暴いて行く。雪に
埋もれたダムなどの風景は雄大で見応えがあるが、物語の展
開は先が読めるし、結末にはちょっと疑問も生じた。

『メルボルン』“Melbourne”
イラン人の若いカップルが、母国からオーストラリアへ留学
に旅立つ日の物語。出発間際の部屋の片づけで慌ただしい中
での善意に始まるちょっとした出来事が、重大な事態を引き
起こす。ボタンの掛け違いがにっちもさっちも行かなくなる
というお話はそれなりのドラマを生むが、その切っ掛けが本
作では正直に良い感じがしなかった。

『ナバット』“NABAT”
戦火に曝されるアゼルバイジャンの寒村を舞台にした作品。
村外れで病弱な夫と共に倹しい生活を送る老婆は、戦死した
息子の墓もあって村を離れることができない。しかも戦火が
迫り空き家ばかりの村はオオカミの来襲も問題だった。そん
な中での老婆の取った行動が戦況に皮肉な結果をもたらす。
ヒューマンな作品で女優の淡々とした姿も好感だった。

『ロス・ホンゴス』“Los Hongos”
コロムビアの中都市を舞台に、グラフィッティで自己主張を
行おうとする若者の姿を描いた作品。グラフィティに関して
はアメリカのドキュメンタリーなども紹介されているから目
新しいものはないし、そこで繰り広げられる青春ドラマも、
まあ在り来たりの感じは免れなかった。もう少し何か共感を
呼べるものが欲しかった。

『マイティ・エンジェル』“Pod Mocnym Aniołem”
アルコール依存症の実態を描いて主演のロベルト・ヴィエン
ツキェヴィチが最優秀男優賞を獲得した作品。依存症のどう
しようもない姿を体当たりで演じた俳優は受賞も当然という
感じだ。僕自身も酒は飲むし過去には失敗もあるが、こんな
風に酒に溺れなかったことは、自分自身の身体に感謝したい
と思う。そんな依存症の実態は見事に描かれていた。

『草原の実験』“Испытание”
1949年のカザフスタンの大草原を舞台にした青春ドラマ風の
作品。鉄道の終着駅だったのか、庭に列車止めのある線路を
持つ家。そこに父と暮らす少女は、アジア系の若者と金髪の
若者に思いを寄せられていたが…。実は画面中の旗に気付い
た時に結末が予想され、そこからの緊張感が半端ない。芸術
貢献賞を受賞したが、僕的にはグランプリの作品だった。
        *         *
 実は、今年のコンペティション部門には15本がエントリー
されていたが、もう1本は内容的に観るに堪えなくて、上映
の途中で退席してしまったものだ。しかしその作品の評価が
高いようで…。
 でも僕に言わせれば、暴力やドラッグなど若者の生態を唯
だらだらと写しているだけの作品で、同種の作品ならもっと
気の利いたものも先にあるし、それらの作品に伍してこれを
評価できるほどのものではなかった。
 とは言え、例年こんな作品が1本はある中で、今回は特に
選ばれた作品が受賞したということでは、作品を選考した人
の意見は正しかったのだろう。僕の考えとは違うが、これが
最近の風潮であるのかもしれない。
 と言うことで僕の考える受賞作は、
グランプリ:草原の実験
審査員特別賞:マイティ・エンジェル
最優秀男優賞:ロベルト・ヴィエンツキェヴィチ
最優秀女優賞:宮沢りえ
最優秀芸術貢献賞:アイス・フォレスト/遥かなる家

11月02日(日)
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