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On the Production
by 井口健二
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■ウォールフラワー、ルームメイト、くじけないで
「原案」とされており、これはかなり脚色があるのかな。
映画では、巻頭に凄惨な殺人事件の現場が登場し、そこから
フラッシュバックで物語が展開されて行く。従って物語には
常に犯罪の影が付き纏い、しかもそれがかなり凶悪だという
ことになる。
そんな緊張感はそれなりに表現されていたかな。ただ本筋の
多重人格というのは過去にいくつもの名作があるから、種明
かしの驚きというのは薄れているし、その辺ではもう少し何
か工夫が欲しかった感じはした。
とは言えクライマックスの2人の女優によるバトルは血糊も
たっぷりで、その中で北川と深田はよく頑張っていた。でも
これで話の辻褄は合っているのかな? その辺はちょっと気
になったところだ。
共演は、高良健吾、尾上寛之、大塚千弘、筒井真理子、蛍雪
次朗、それに田口トモロウらが脇を固めている。でも映画は
事実上2人の女優だけの物語で、その北川と深田の演技の渡
り合いも見ものの作品だ。特に深田は多重人格の変化を巧み
に演じていた。
なお本作は東映撮影所で撮影され、東映映画が配給する作品
だが、製作プロダクションは東宝映画とクレジットされてい
た。日本の2大映画会社の共同となるもので、その辺の経緯
も知りたくなったものだ。

『くじけないで』
90歳を過ぎてから詩作を始め、その出版された2冊の詩集が
累計で200万部超えのベストセラーとなり、今年1月に101歳
で他界した柴田トヨさんの生涯を描いた作品。
物語は、作家志望だが挫折を繰り返してきた息子と、母親を
中心に描かれる。その息子は職に就いても長続きせず、憂さ
晴らしのギャンブルに溺れて、家計は学生時代からの糟糠の
妻が保険の外交員の仕事で支えている。
そんな息子が新聞の投稿欄で詩作の募集を見たことから話が
動き始める。元々作家志望で文才もあった息子は母親に詩作
を勧め指導を始める。こうして始められた母親の詩作では、
新聞紙上の掲載も勝ち取るが…。
物語はこれに、妻が夫の就職先としてようやく見付けてきた
印刷所の話や、母親の主治医の話、さらに登校拒否児を抱え
るシングルファーザーの話、そして母親と息子の若い頃の話
などを絡めて、全体は人情ドラマとして描かれている。
出演は、母親と息子の役に八千草薫と武田鉄矢、息子の妻役
に伊藤蘭。他に、上地雄輔、ピエール瀧、鈴木瑞穂、橋本じ
ゅん。さらに檀れい、芦田愛菜、尾上寛之、黒木華らが主人
公たちの若き日を演じている。
脚本と監督は、2008年7月紹介『真木栗の穴』などの深川栄
洋。監督の作品では2010年10月に『白夜行』も紹介している
が、人間の描写だけでなく時代考証などもしっかりした作品
を今回も作り上げている。
ただし本作は1人の女性の生涯を描いているものだが、原作
は詩集ということで、描かれる物語がどこまで実話に基づい
ているかというと、多分創作された部分が多少あざといよう
にも感じられた。
特に主治医の話やシングルファーザーの話は本編との関りも
少ないし、これを描く必要があったか否か。確かに物語に変
化を付ける意味では理解するが、それにしても描き方が中途
半端な感じもしてしまう。
因にこれらのエピソードには、それぞれ原作の詩が添えられ
ているもので、その詩からインスパイアされた物語というこ
とだろうと思われるが、どことなく取って付けた感じが否め
なかった。
とは言え、紹介される詩自体が元々相田みつを風というか、
何でもないことをただ言葉にしているだけのもので、それを
ドラマにするとこんなものかな。観客はその詩のファンなの
だからこれはこれでよい作品なのだろう。
そんな印象の残る作品だった。
        *         *
 以上、今週は9月1日付から1週間に観た作品15本を全部
紹介してみたが、結果は3週間近く掛かってしまった訳で、
これを継続するのは無理と判断せざるを得ない。
 今後はとりあえず遅れを解消することを念頭に、もう少し
試行錯誤してみることにします。

09月06日(金)
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