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On the Production
by 井口健二
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■ローン・レンジャー、共喰い、おしん、ストラッター、美輪明宏、マッキー、セブン・サイコパス、私は世界の破壊者となった(書籍)
血は自分にも確実に流れていた。
男の暴力に耐えながらしたたかに生きて行く女たち。しかし
その忍耐が限界を超えたとき、女はさらに偉大な力を持って
男を圧倒する。そして時代は、昭和から平成に変わろうとし
ていた。
出演は2011年2月紹介『高校デビュー』などの菅田将暉と、
2006年アミューズオーディションでグランプリの木下美咲が
若いカップルを演じ、他に光石研、篠原友希子、田中裕子ら
が脇を固めている。
物語は田中慎弥の同名小説によっているが、原作はそのまま
撮っても長編映画にはならない長さだったそうで、本作はそ
の原作から2011年6月紹介『大鹿村騒動記』などの荒井晴彦
が見事な脚色を施したものになっている。
その脚色は、脚本家曰く「ロマンポルノにしたかった」のだ
そうだが、監督の青山もその意向を受けて、見事に昭和のロ
マンポルノの味わいを作品に描き込んでいる。この脚色には
原作者も脱帽したそうだ。
そして俳優たちも見事にその意気を感じさせる演技を披露し
ているものだ。特に木下が、数回ある過激なシーンも体当た
りで見事に演じきっているのには感心した。また三石のサイ
コぶりも良かった。

『おしん』
1983〜84年に放送されて一世を風靡、その後は東南アジアを
中心に世界にも発信された連続テレビ小説の映画化。
正直に言って「何を今さら」という感じで、高を括って試写
を観に行った。しかし巻頭の幼い少女が吹雪の中を歩いてく
るシーンには「何かが始まりそうだ」という予感を抱かせ、
以後の展開は現代にも通じる定番の感動が描かれていた。
映画の物語はオリジナルテレビシリーズの前半、主人公おし
んの幼少期を描くもので、7歳にして奉公に出され、様々な
苦労の中で人との出会いや別れが描かれる。その中には日露
戦争を背景にした脱走兵などもいて社会性も描かれる。
ただまあ、全体はオリジナルのダイジェストであって、それ
は多少深みに欠ける感じもするが、今さらオリジナルの再放
送を観る時間もない者には、これで充分に作品を味わえるも
のになっている。
因に僕はオリジナルのシリーズをちゃんとは観ていないが、
それでも知っているような名場面の連続で、観ていてなるほ
どと思えるような作品になっていた。それは各シーンが見事
に再現されているということでもある。
ただしおしんの出立のシーンは、オリジナルは奇跡的な晴れ
の天候で撮影されたと伝えられるが、本作では雪が降りしき
る中。その映像がより強く主人公の行く末を暗示しているよ
うで見事だった。
出演は、おしん役に約2500人のオーディションから選ばれた
という濱田ここね。その両親役を上戸彩と稲垣吾郎。また昨
年の「美少女コンテスト」で審査員特別賞の井頭愛海。そし
てオリジナルでおしんの母親役を演じた泉ピン子。
さらに岸本加世子、小林綾子、吉村実子、満島真之介、乃木
涼介、ガッツ石松らが脇を固めている。
監督は、2008年2月紹介『あの空をおぼえている』などの冨
樫森。以前から子役の扱いは上手い監督と承知していたが、
本作でも見事にその手腕が発揮されている。因に監督は山形
県の生まれだそうで、その故郷にかける思いも本作には反映
されているようだ。

『ストラッター』“Strutter”
昨年の東京国際映画祭「world cinema」で上映された作品。
1992年『ガス・フード・ロジング』などで知られるアリスン
・アンダース監督がカート・ヴォスと共同で監督し、1987年
『ボーダー・レディオ』、1999年“Suger Town”に続く3部
作の完結編となっている。
なお本作の製作には、クエンティン・タランティーノ、ガス
・ヴァン・サントらアメリカ映画界の鬼才たちが支援の輪を
広げたとのことだ。
物語は、ロッカーの男が突然恋人から別れを告げられ、さら
にバンドのメムバーからも脱退宣言をされ、その失意の中で
もがき苦しみながらも、徐々に自らを立て直して行こうとす
る姿を描いている。
実は試写を観ていてかなりの既視感に囚われた。それで本作

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07月20日(土)
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