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On the Production
by 井口健二
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■黒く濁る村、キック★アス、酔いがさめたらうちに帰ろう、ソフィアの夜明け、乱暴者の世界、とびだす絵本+製作ニュース
るを得ない面があって、実は映画の前半では、まあ脳天気に
笑っている餓鬼も多少はいたが、大人の評論家の多くは退き
気味だった。それが中盤に来てヒロインが登場した辺りから
一気に雰囲気が変化した。
これはもう演出上のテクニックとしか言いようがないが、今
回はそれに見事に乗せられた感じで、映画の後半は過激な描
写も何のその、思いっきり楽しめて最後にはカタルシスも感
じられたものだ。
製作、脚本、監督は、ガイ・リッチー作品の製作者で2006年
6月紹介『レイヤー・ケーキ』で監督デビューしたマシュー
・ヴォーン。今回は、前作2007年『スターダスト』にも参加
したジェーン・ゴールドマンとの共同脚本で、過激で暖かい
作品を仕上げている。また製作にはブラッド・ピットも名を
連ねていた。
出演は、2008年3月紹介『幻影師アイゼンハイム』で主人公
の若き日を演じていたアーロン・ジョンスンと、2007年公開
の“Superbad”で評価されたクリストファー・ミンツ=プラ
ッセ。それに2008年10月紹介『アイズ』などに出演のクロエ
・グレース・モレッツとニコラス・ケイジ。中でも、1997年
生まれのモレッツが演じたキャラクターは鮮烈だ。
因に本作には、同じスタッフ・キャストが揃う続編の計画も
進行中となっており、その第1作が劇場公開されたのは本当
に良かったものだ。

『酔いがさめたら、うちに帰ろう。』
漫画家西原理恵子の元夫で、戦場カメラマンだった鴨志田穣
原作による自伝的小説の映画化。
とある居酒屋。宴会をしている若い女性を少し先のカウンタ
席から指でフレームを切って眺めている男がいる。やがて男
は椅子から転げ落ち、そこに妻と2人の子供が駆け寄って介
抱を始めるが…
居酒屋の店員に介抱された男は何とか母親と2人暮らしの家
にたどり着き、そこでも酒を飲み始める。そして吐血。救急
車で運ばれた男の許に離婚している妻も駆けつけるが、アル
コール依存症の男が吐血したのはこれが10回目だった。
こうして男は、元妻の勧めるアルコール依存症の専門医の指
導を受けることになり、さらに依存症治療の施設のある精神
病院にも入院する。そこでは様々な患者たちと顔を合わせ、
そんな環境の中で男のアルコール依存症は治療されて行った
のだが…。
以前にも書いたと思うが、西原原作の映画化はどうにも僕に
は性に合わないことが多い。でも今回は元夫の原作で、そこ
にはアルコール依存症の恐ろしさが見事に描かれていた。
西原の作品は無頼派と叙情派の2面があると言われるそうだ
が、その映画化を観る限り僕には、そのどちらにも何か人に
対する冷淡さのようのものを感じる。でもこんな夫がいたの
では仕方ないのかな、そんな悲しみも感じられた。
ただし本作の原作者は元夫の方で、作品には元妻への感謝の
気持ちが一杯に表わされているものだ。ただそれによって一
層、悲しみが増してくる感じの作品でもあるのだが。
出演は浅野忠信と永作博美。その脇を市川実日子、利重剛、
藤岡洋介、森くれあ、高田聖子、柊瑠美、北見敏之、蛍雪次
朗、光石研、香山美子らが固めている。さらに渡辺真起子、
甲本雅裕、堀部圭亮、西尾まりらが出演。西原も患者の役で
出演している。
脚本、監督、編集は東陽一。2004年のモントリオール映画祭
で受賞した『風音』以来6年ぶりの新作とのことだが、実は
本作には2006年以来関っていたそうで、原作者本人や元妻の
西原などへの取材も行われているとのこと。アルコール依存
症の恐ろしさやその現実もしっかりと描かれた作品だ。
なお本作は、今年の東京国際映画祭「日本映画・ある視点」
部門のオープニング作品にも選ばれている。

『ソフィアの夜明け』“Източни пиеси”
昨年の東京国際映画祭では『イースタン・プレイ』の原題で
上映され、最高賞の「東京サクラグランプリ」及び最優秀監
督賞、最優秀男優賞の3冠に輝いたブルガリアの作品が、改
題されて一般公開の運びとなり、改めて試写が行われた。

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10月03日(日)
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