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On the Production
by 井口健二
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■白いリボン、クロッシング、ストーン、海炭市叙景、うまれる、フード・インク、美女と野獣3D+他
神の目となって全てを判っている状態で物語が進むのだが、
それによってより深く彼らの苦悩が理解されるのは、見事な
脚本と言えるものだ。
その脚本は、映画科学生時代に作った作品がハリウッド映画
祭に正式招待されるなどしたものの、その後はニューヨーク
地下鉄に就職していたというマイケル・C・マーティンが、
負傷による療養で出来た時間に書き上げたというもの。
その脚本から、2003年8月紹介『ティアーズ・オブ・ザ・サ
ン』や、2004年7月紹介『キング・アーサー』などのアント
ワン・フークアが製作総指揮も兼ねて監督している。
上記の3人を囲む共演者は、ウィズリー・スナイプス、エレ
ン・バーキン、ウィル・パットン、ヴィンセント・ドノフリ
オ、リリ・タイラー。かなり渋目の配役が見事なアンサンブ
ル劇を繰り広げる。
映画は巻頭から衝撃的な映像で始まり、観るものをぐいぐい
と引き込んで行く。上映時間は2時間12分の作品だが、観て
いる間は全く時間を感じさせず、映像の迫力で押し切られる
感じの作品だった。

『ストーン』“Stone”
ロバート・デ・ニーロ、エドワード・ノートン、ミラ・ジョ
ヴォヴィッチ共演による宗教を背景とした人間ドラマ。
デ・ニーロが演じるのは刑務所の仮釈放管理官。仮釈放を求
める受刑者と面談して仮釈放審査会へ送る書類を作成するの
が彼の仕事だ。そのため彼は受刑者に対して事件のことや受
刑者自身の心情などいろいろな事柄を執拗に聞いて行く。
実はそんな管理官も、すでに定年を間近にして長年続けてき
た仕事に対していろいろ欝積しているものもあるようだ。そ
の管理官の前にノートン扮する11年の刑期で服役して8年目
を迎えた受刑者の男が現れる。
その男は、最初は管理官に対して反抗的な態度を見せたりす
るが、やがてとある宗教を持ち出して管理官に自分の心境の
変化をアピールし始める。その一方で男はジョヴォヴィッチ
扮する自分の妻に、管理官に接近して懐柔するように指示も
しているのだが…
本作のアメリカ公開時の宣伝コピーは、‘Some People Tell
Lies. Others Live Them’というものだったそうだ。その嘘
を吐いているのが誰かというのがポイントになる作品だが、
果たして受刑者の男は本当に宗教に帰依したのかどうか、そ
の判断が難しい。
実際、管理官には紛れもなく嘘を吐いている部分があるのだ
し、さらに管理官と43年連れ添った妻(舞台女優のフランシ
ス・コンロイが扮している)の人生は嘘の塊であったかも知
れない。そんな夫婦に比べると、受刑者とその妻の方がよほ
ど純粋に生きているようにも見えてしまうものだ。
というような物語が、アメリカでは無数にある宗教番組の音
声と共に綴られて行く。この音声は当然フェイクだと思われ
るが、かなりインチキ臭い発言もあって、つまり宗教自体が
嘘…という感じにも取れてしまいそうな作品でもある。
脚本は、2005年“Junebug”という作品が評判になったアン
ガス・マクラクラン。元々が劇作家だそうで、2005年の作品
が評判になった後、プロデューサーから求められて自作の台
本の中から一番映画化に向きそうな作品を脚本に仕上げたも
のとのことだ。
そして監督は、1998年“Praise”という作品でトロント映画
祭やオーストラリア批評家協会賞を受賞しているジョン・カ
ラン。前作の2006年“The Painted Veil”(サマセット・モ
ーム原作、エドワード・ノートン製作主演)に続いてノート
ンと組んでいる。
また刑務所のシーンは、ミシガン州のジャクソン刑務所で撮
影されており、デ・ニーロとノートンは実際の管理官や受刑
者に取材して役作りをしているとのこと。特にノートンは、
その取材に基づいて脚本の改稿から演出の修正、音楽の選定
にまで意見を述べているそうだ。
なお本作は、今年3月紹介『ザ・エッグ』、4月紹介『ボー
ダー』に続く「男のドラマ」の括りで宣伝されるものだが、
前の2作に比べるとアクションというよりは心理劇…という
ほどでもないが、ちょっと不思議なテイストの作品になって

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09月19日(日)
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