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On the Production
by 井口健二
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■第22回東京国際映画祭・コンペティション以外(1)
いう部門があり、そこで上映された作品だが、テーマが映画
ということもあって気にはなったものだ。でも何と言うか製
作意図の判らない作品だった。
もしかしたら、制作者たちの意図は50年以上も前に撮影され
た映画の中の風景と、現状との対比をさせたかったのかも知
れないが、見事に50年前がそのまま残された風景は、対比の
させようもないものだった。
確かに映画の中で主人公が到着する鉄道駅のレールなどは錆
びてはいたが、その他の田園や草原などは見事に50年前のま
ま。僕にはその保存が叶った理由も知りたかったが、制作者
たちの意図はそこにはなかったようだ。
それで映画にも出てくる町のパブでの思い出話となるのだが
…これが何というか正に老人の酔っ払いの繰り言という感じ
で、観ていて微笑ましくはあるが、「ジョン・フォードはア
カデミー賞を取ったが、ジョン・ウェインは取れなかった」
など何度も繰り返されると、いい加減うんざりもしてくる。
その他にも、子供たちが“The Quiet Man”のストーリーを
リレーで語ってくれるというシーンもあるのだが、それが町
の伝統としてでも残っているかと思ったらそうでもないらし
くて、何か無理矢理覚えさせられているような口調には、退
いてしまう感じもした。それに映画の結末までばらしてしま
うのは、いかがなものか。
ただし本作のエンディングで、女の子がアイリッシュダンス
を踊っているシーンには、少しほっとさせられるところもあ
ったもので、こんな感じがもっと作品の全体に出ていたら良
かったのにとも思えた。
『キング・オブ・エスケープ』(WORLD CINEMA部門)
今年のカンヌ映画祭監督週間で上映されたというアラン・ギ
ロディ監督の最新作。
ゲイの中年男が16歳の少女に恋をするという…常識では考え
られない物語を通して、自分を変えられるかというテーマに
挑んでいるそうだが、ゲイがテーマということでは、僕は主
人公に感情移入も出来ず、作品に没入できないまま終わって
しまった。
主人公は田舎町でトラクターのセールスマンをしているが、
あまり熱心でもないし、それに折角のゲイ仲間の得意先も営
業区域の線引きで、他の同僚に取られたりもしてしまう。そ
の上、営業成績が上がらないと詰られては…
そんな主人公が一夜の男を探して夜の町を彷徨う内に、1人
の少女が4人の男に囲まれているのを目撃する。そしてその
少女を助けるのだが、彼女は主人公の上司の娘だった。そし
て家に送り届けた主人公に、少女は恋をしてしまう。
こうして、中年ゲイ男と少女の恋という不可能な恋物語が始
まるが…元々が未成年との異性交友は御法度な上に、彼自身
がその恋に応えられるかという問題もある。それでも主人公
は自分を変えねばと意志を貫こうとする。
まあ物語自体はそれなりに作られているし、田園風景や野外
でのセックスシーンなど大胆な描写もある作品ではあるのだ
が、如何せんゲイテーマと言うことで、しかもかなりメタボ
な男の裸体が出てきたりすると、そういう気のない者として
は正視もし辛いものだ。
でもまあ、その手の趣味の人にはこれで良いのかな、その辺
は僕には理解できなかった。
『TOCHKA』(日本映画・ある視点部門)
僕が、ゲイテーマに続いて退いてしまうのが自殺テーマとい
うことになるが、本作は父親が自殺したというトーチカを訪
れる男性を主人公とした作品。
根室半島の海岸で撮影されたトーチカは、戦争では何の役に
も立たなかったが、子供たちに遊び場所は提供してくれたよ
うだ。しかし彼の父親がそこで自殺してからは、子供たちが
そこで遊ぶこともなくなったという。
そんな思い出を語る男性と、研究のためトーチカの撮影に来
たと称する女性の会話で物語は展開されて行く。ただし女性
の行動にも、トーチカの窓と持参のスライドを丹念に比較す
るなど、何か不自然なところもある。
最初に書いたように自殺テーマも好きではないが、この作品
では菅田俊の演じる男性の行動に尋常でない迫力があり、そ
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10月20日(火)
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