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On the Production
by 井口健二
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■第22回東京国際映画祭・コンペティション部門(2)+まとめ
ニューヨーク市の一部をなすスタテンアイランド。しかしそ
こは、天気予報も割愛され、市議会でも予算の計上が忘れら
れてしまうような…存在自体が無視されている場所。しかも
そこは以前から、マフィアが蔓延る場所としても知られてい
た。
物語は、その場所にシマを張る地元マフィアのボスを中心と
したもの。彼の家に強盗が押し入ったことから、ボスはスタ
テンアイランドの全域を自分のシマにすると宣言する。しか
しその考えに子分たちはあまり乗り気ではないようだ。
一方、その町で汚水の回収の仕事をしている男がいた。彼は
恋人との間に子供を欲しがっているが、その子供が自分と同
じような暮らしをすることは希望ではない。そんなとき訪れ
た病院で、遺伝子を改良して天才を生み出す研究のことを聞
いてしまう。
そしてもう1人。町の精肉店で働く初老の男。彼は裏ではマ
フィアが殺した遺体を闇に葬る処理を任されていた。しかし
彼はそんな仕事に嫌気が差しており、彼自身には暗殺者とし
ての腕もあった。
こんな3人も物語が交錯し、やがてボスの一大決心へと繋が
って行くことになるのだが…
映画の構成は、一つ一つの物語をちゃんと描きつつ、それが
時間を前後させて相互の関係を描いて行くもの。『バベル』
などでも使われた最近流行りの手法ではあるが、本作ではそ
れぞれが短編映画の様に作られていて、それなりに観られる
ようにもなっていた。その辺は脚本家の腕でもあるようだ。
3人の主人公を演じるのは、ヴィンセント・ドノフリオ、イ
ーサン・ホーク、そしてシーモア・カッセル。ベテラン脚本
家の初作品を祝うような顔ぶれが集まっている。
全体的にはユーモラスな作品で、結末にはちょっとファンタ
スティックな要素もあり、その他にもちょっと突飛な感じも
あって、その意味でも楽しめる作品だった。
『テン・ウィンターズ』
僕らが普段目にする「水の都」とはちょっと違うヴェネチア
を舞台に、1999年の年末から2009年の新春まで10回の冬を巡
る1組の男女の物語。
女は18歳、大学でロシア文学を学ぶために引っ越してくる。
その女の乗船したフェリーに乗り合わせた男は、一目で彼女
を見初めてしまい彼女の後を付けて引っ越し先の一軒家まで
来てしまう。そして2人は一つ屋根の下で一夜を過ごしてし
まうのだが。
正直に言って、この出だしで退いてしまった。フェリーの中
で目を交わしただけの男女がいきなりこれかよ…イタリア男
には普通のことなのかも知れないが、もう若者でもなく親の
世代の自分には、この最初のシーンだけで違和感が生じてし
まったものだ。
そして2人は翌日には別れ、その後10回の冬の訪れごとに何
故か偶然に巡り会って、そのたびにいろいろな別れが演じら
れて行くのだが…最初に違和感を感じるとその巡り会いにも
不自然さが拭えなくなって、とにかく全体が普通には観てい
られなかった。
もちろん映画は創作物だから、作者の考えで偶然の重なりは
有ってもいいが、最初のつまずきで僕には物語に入り込めな
かったものだ。
それを別にすると、この作品を観るまで考えもしなかったヴ
ェネチアの冬の厳しさや、女性の家の前に植えられ柿の木の
成長など、それぞれには観るべきところも有るし、古い町並
など映像的にも見所は有るのだが…
脚本監督は1978年生まれの新鋭とのことだが、次にはもう少
し現実に目を向けた自然な感じの作品を期待したいものだ。
『激情』
ギレルモ・デル=トロが製作者として参加しているスペイン
・コロムビア合作のスリラー作品。
マドリッドのとある邸宅で住み込みのメイドとして働くロー
ザは、町で会ったコロムビア人の肉体労働者ホセ=マリアに
恋をして、雇主が旅行中の邸宅で一夜を過ごすなど2人の仲
は進展して行く。
ところがちょっと粗暴なホセは、ローザの悪口を言った連中
に暴力で仕返ししてしまい、それが彼の働く工事現場の監督
に知れて解雇を言い渡される。しかも言い訳をしようとした
ホセは、誤ってその監督を殺してしまう。
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10月17日(土)
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