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On the Production
by 井口健二
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■風の馬、This Is England、四川のうた、シェルブールの雨傘、7つの贈り物、ハリウッド監督学入門、ロシュフォールの恋人たち
1998年に公開されたブライアン・シンガー監督、イアン・マ
ッケラン、ブラッド・レンフロ共演の“Apt Pupil”(ゴー
ルデン・ボーイ)は、スティーヴン・キングの原作から身近
に潜むナチスの残党の恐怖を描いたものだったが、本作もそ
れに似た恐怖を味わえる。
もちろん、映画の中でも「俺たちはナチスではない」という
発言は聞かれるが、国家主義というものがまさに同じ危険を
孕んでいることは、この映画の中に明確に描かれているとこ
ろだ。そしてそれは若者を容易に虜にして行く。
当時のイングランドの不況の状況は、サッチャーと同様の保
守政権下の日本の現状にも似たところがあり、これから竹島
問題などが妙な方向に進めば、これは日本でも容易に起こり
そうな問題にも見える。そんな日本への警鐘とも取れそうな
作品だ。
因に映画の若者たちはスキンヘッズであり、その姿はネオナ
チを連想させる。しかし物語は1980年代前半を背景としたも
ので、彼ら自身が国家主義者とは描かれていない。むしろ彼
らは自由を謳歌しようとしているのであり、それは国家主義
とは容れないものだ。
しかしそんな自由を目指す精神が、容易に別のものに変質さ
せられて行く。そこには主人公の幼さだけで説明してはいけ
ないような、現実の危うさも描かれている。そんな昔も今も
厳しい現実に晒されている若者の姿が、真摯に描かれた作品
とも言えそうだ。
なお本作は、2008年のイギリスアカデミー賞(BAFTA)
で最優秀イギリス映画賞を受賞した。
『四川のうた』“二十四城記”
四川省・成都に在った巨大軍需施設420工場。1958年に創業
されたその工場は2007年末に閉鎖され、その跡地は新たな住
宅街「二十四城」へと生まれ変わろうとしている。
その工場閉鎖式に立ち会った2004年『世界』などの名匠ジャ
・ジャンクー監督が、その記録のために行った元従業員への
インタヴューに基づき、さらにその一部を俳優にも演じさせ
て再構成したセミドキュメンタリー作品。
その手法は、あえて再現ドラマとするのではなく、それぞれ
のエピソードに合せた会場を設定して各自の語りだけで構成
されたもので、その姿は極めて分かり易く、工場の歴史とそ
れに対応する当時の中国の情勢などが描かれて行く。
その中では、政府命令で強制的に移住させられた旅の行程で
息子と生き別れた女性(『古井戸』のリュイ・リーピンが演
じる)の話や、ジョアン・チェンが演じる工場のアイドルと
呼ばれた女性など、周囲や政情に振り回された様々な人生が
描かれる。
さらに、『世界』などジャ・ジャンクー作品の常連チャオ・
タオ(若い女性のバイヤー役)や、テレビシリーズ『美顔』
で田中麗奈と共演していたチェン・ジェンビン(社長室の副
主任役)らが、模造されたインタヴューの語り手を演じる。
一応、キャストとして発表されているのはこの4人だけで、
従って他の語り手は実際の元従業員のようだが、その語り口
調は大げさにドラマティックではないものの、静かに苦難の
時代を噛み締めているようにも感じられた。
俳優によって語られるエピソードはもちろん見事だが、そう
でない登場人物たちがそれぞれの口調で語る喜怒哀楽の内容
にも重みがある。
経済の好況や不況などは世界のどの国でも同じようなものだ
と思うが、さらにそこに政治が加わると、その苦難は倍加し
て行くようにも見える。そんな中国人民が味わった苦難の歴
史がこの映画の中に集約されているのだろう。
なおエピソードは1950年代から90年代にまで及んでおり、そ
れぞれの時代背景に合せた音楽にも彩られる。その中にはテ
レビドラマ『赤い疑惑』の日本語による主題歌や、中国語の
『インターナショナル』なども含まれていて、それらにも興
味を引かれた。
『シェルブールの雨傘』“Les Parapluies de Cherbourg”
カトリーヌ・ドヌーヴ主演、ジャック・ドゥミー脚本監督作
詞、ミシェル・ルグラン作曲による1964年カンヌ国際映画祭
グランプリ受賞作品。
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01月18日(日)
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