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On the Production
by 井口健二
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■チェンジリング、遭難フリーター、花の生涯:梅蘭芳、連獅子/らくだ、パッセンジャーズ、PVC−1、ザ・クリーナー
に足を踏み入れる。しかし、土日の仕事では間で埼玉に帰る
交通費も乏しく、マンガ喫茶などで夜明かしをする。
先日もそんな場所での火災が事件になったが、現実の厳しさ
は計り知れないもので、そんなことも今更ながらに目の当り
にさせられる思いがした。
また映画の中では、キャノンが史上最高4000億円の利益を上
げたという新聞記事も紹介される。その時の正社員と派遣社
員の数は併せて約3万人。単純な頭割でも1人当り1千万円
以上となるが、彼らにそんな賃金が支払われることはない。
さらに主人公は、派遣社員の待遇改善を求める街頭行動に参
加したり、それによってマスコミに取り上げられたり、トー
クイヴェントに参加したりもするが、何をしても八方塞がり
の感じは否めない。
それでも最後に主人公は、高円寺での深夜までの仕事の後、
宛もなく雨の環状七号線を南下し始め、平和島に辿り着く。
そこで進入禁止の看板に行く手を阻まれたとき、ここが自分
の出発点だと宣言する。
八方塞がりの社会でも何かを始めようとする言葉には希望を
感じるし、そのコンセプトがこの作品自体を救ってもいるの
だろう。だから見終っても、何処か気持ちがすがすがしいも
のになっていた。
なお一般公開は、来年2月に東京で開始の予定だが、作品中
の実名部分などは表現上で一部変更の可能性はあるようだ。

『花の生涯/梅蘭芳』“梅蘭芳”
2002年『北京ヴァイオリン』などの陳凱歌監督が、1993年の
『さらば、わが愛/覇王別姫』以来15年ぶりに中国京劇の世
界に挑んだ作品。
『覇王別姫』は全くのフィクションだったが、今回は20世紀
初頭に実在した女形の名優を主人公に、当人が「俳優の王」
と謳われるようになるまでの経緯や男形女優との悲恋、海外
公演の様子や日本軍による占領などのエピソードを交えてド
ラマが展開される。
そしてそこには、主演のレオン・ライ及び主人公の青年時代
を演じた新星ユイ・シャオシェンによる梅蘭芳の名舞台の再
現なども織り込んで、見事な歴史絵巻が展開されるものだ。
特にこれらの舞台では梅蘭芳の息子による歌声の吹き替えも
聞き物になっている。
共演は、梅蘭芳の妻役に監督夫人のチェン・ホン、後見役に
スン・ホンレイ、ライヴァルの老優役にワン・シュエチー、
日本軍の将校役に安藤政信。そして男形女優役にはチャン・
ツィイーが登場。女形の主人公との共演シーンは演技以上に
芸術的なものになっている。
映画の物語は、実話では複数の人物を1人に纏めるなど判り
易くはしているが、ほぼ史実に基づくもの。それを実の息子
が歌声を吹き替えるほどの関係者の全面協力の許で映画化し
ているものだが、その中で悲恋の部分にまで触れられたのは
監督の力にもよるようだ。
その物語は、西太后が君臨する清朝末期に始まる。両親とは
早くに死別し、京劇俳優だった祖父に育てられた主人公。し
かしその祖父は皇后の怒りに触れて処刑されてしまう。その
遺言では、京劇の道は目指すなとされるが、主人公は一族の
血を継いでその跡取りとなる。
そして10年後、清朝は崩壊して中華民国となった社会で、京
劇俳優として頭角を現す主人公は、講演会で巡り会った官吏
の男性と義兄弟の契りを結び、そのアドヴァイスの許、京劇
界に新風を吹き込む活動を始める。
それは当然ヴェテラン俳優たちの反感も買うが、そこには挑
戦状を突きつけて意志を貫き通す。そして民衆の支持も勝ち
取って行く。そんな彼には、やがて「俳優の王」の扁額も贈
られるようになるが…
監督は、2005年『PROMISE』では武侠ものにも挑戦して見せ
たが、やはり本作のような人間ドラマの方が似合っているよ
うだ。その人間ドラマを、大掛かりなセットや見事な演出で
綴った作品。その見応えは充分なものだった。

『連獅子/らくだ』
8月に『人情噺・文七元結』を紹介しているシネマ歌舞伎の
第7作。今回はこれも落語からの『らくだ』と、山田洋次監
督による『連獅子』が2本立てで上映される。因にタイトル

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12月21日(日)
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