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On the Production
by 井口健二
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■カフーを待ちわびて、はじめての家出、天使の目・野獣の街、クジラ、エレジー、年々歳々、いのちの戦場、重力ピエロ
脚本・監督は、2001年のぴあフィルムフェスティバルグラン
プリ受賞者の菱沼康介。すでに商業作品も手掛けているよう
で、本作も難しい作品ではなかったとは思うが、そつなく丁
寧に作られているのは好感した。
なおこの作品は、札幌、浜松、栃木、讃岐など各地の映画祭
や、東京多摩市で開催の映画祭TAMA CINEMA FORUMでも上映
されたようだ。

『天使の目、野獣の街』“跟蹤”
2006年9月30日に紹介した『エレクション』などのジョニー
・トー監督の右腕と言われる脚本家ヤウ・ナイホイが、トー
の製作の許、満を持して挑んだ監督デビュー作。
香港警察刑事部情報課・監視班に配属された新人婦警を中心
に、凶悪な犯罪グループを追う捜査の模様が描かれる。
その婦警は1人の中年男の尾行を続けている。それはその男
の一挙手一投足のすべてを記憶しながら、相手に気付かれず
に行うものだったが…
その任務を完了し、監視班への正式配属が決まった彼女は、
早速、宝飾店連続強奪事件の捜索に駆り出される。
それは最初に監視カメラの映像から容疑者の1人が割り出さ
れ、その尾行から犯人グループのアジトの割り出しまで順調
に進むが、そこでそのグループの背後に隠れた主犯のいるこ
とが判明する。このため、その主犯を特定することが監視班
の新たな目標となる。
監視班にとっては面が割れることが致命傷であり、常に陰の
存在としてあり続ける。このため、必ず1件に総動員で、捜
査中に他の事件に行き合っても、それに関わることは禁じら
れる。その非情さが主人公を苦しめ、そして成長させる。
一方、監視班の捜索は、本部で行われるITを駆使した情報
解析と共に、現場には多数の捜査員が網の目のように配置さ
れて、その見事な連携プレーによって進められる。それでも
現場には思いも拠らぬアクシデントも発生し、ドラマが作ら
れて行く。
捜査の開始と同時に大勢が一斉に出動し、捜査が終了すると
霧か霞のように消えて行く。そんな監視班の活動が見事に描
かれる。
上映時間は90分。余分な描写はほとんど排除され、ドキュメ
ンタリーのようなタッチで鮮烈な物語が展開される。しかも
そこには主人公の感情の爆発やそれを乗り越える成長なども
描き込まれ、正にエンターテインメントの真髄が示されてい
るものだ。
主演は、香港のテレビドラマなどで活躍し、本作で映画初主
演のケイト・ツィ。その脇を、『エレクション』などのサイ
モン・ヤムとレオン・カーファイが固めている。
今年僕が観た中では、2月10日に紹介した『バンテージ・ポ
イント』に匹敵する「映画」を堪能させてくれる作品。この
ヒロインには続編も期待したいものだ。

『クジラ 極道の食卓』
極道マンガで人気の立原あゆみの原作を、松平健主演で映画
化。脚色は「ミナミの帝王」シリーズなどの友松直之、監督
は『そして春風にささやいて』などの横山一洋。
主人公は久慈雷蔵、55歳、ヤクザの濁組の組長。その主人公
がある日のこと、年頃の娘のいる妻に熟年離婚を切り出し、
組には夜間は現れないと言い置いて帰ってしまう。そんな態
度に訝しげな家族や組員だが、組長の指示は絶対だ。
そして主人公は、妻子のいないアパートの1室で自炊暮らし
を開始、さらに詰襟の学生服を着用して、定時制高校にも通
い始める。それは主人公が若い頃に経験できなかった青春時
代の再現だった。
その高校では、当然彼の存在は際立ってしまうが、持前の人
柄で仲間もできて行く。そして「2番目の彼女」と宣言する
女子も現れる。一方、1人暮らしの自宅には子分にしてくれ
という若者が現れ、その若者には在る事情から彼の夜の生活
が露見してしまうが…
そこにいろいろな事件が起きて、どちらかと言うとコミカル
なドラマが展開する。まあ、お話自体は他愛ないものだし、
松平ほどの役者が何で出ているのかとも思うところだが、こ
の映画にはそれ以外のセールスポイントが設けられている。
実はこの映画では、題名の通りいろいろな食卓=料理が登場

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12月14日(日)
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