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On the Production
by 井口健二
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■禅、その木戸を通って、彼女の名はサビーヌ、破片のきらめき、ターミネーター:サラ・コナー(続き)、特命係長・只野仁
を出産するのだが…。女は、「笹の道の先に木戸が在って、
その木戸を通って」と語り出す。
物語自体は現実にもありうることではあるが、その雰囲気は
何かファンタスティックなものにも通じてくる。もちろんそ
こには、ジェームズ・ヒルトン原作の『心の旅路』などもあ
るのだが、記憶喪失という尋常でない出来事がこの作品にも
そんなイメージを湧かせる。
しかもそれを、その前には『竹取物語』や『つる』、『火の
鳥』、『トッポ・ジージョのボタン戦争』なんて作品も手掛
けた市川監督が映像化しているのだから、その辺はよく判っ
て作られている感じのするものだ。
出演は、中井貴一、浅野ゆう子。他に、フランキー界、岸田
今日子らが共演している。
なお今回の劇場上映はフィルム変換されたもので行われ、そ
の後はDVD化の予定はあるようだが、この作品こそ、ぜひ
ともBlu-rayでの発売を期待したい。それと、できたらハイ
ビジョンでの上映も観たいものだ。
『彼女の名はサビーヌ』“Elle s'appelle Sabine”
1985年に17歳でフランスのアカデミー賞とも言われるセザー
ル賞を受賞、さらに1995年にはヴェネチア映画祭で女優賞を
受賞するなど国際的に活躍するフランス人女優サンドリーヌ
・ボネールが、1歳下の妹サビーヌの姿を追ったドキュメン
タリー。
そのサビーヌは、現在は自閉症と診断され、サンドリーヌが
理事も務める小規模な療養所で治療を受けている。しかし以
前は、その病名も判らないままに5年間に渡って精神病院に
入院させられ、過剰な投薬や監禁などの治療が行われていた
とのことだ。
この作品では、その入院以前にサンドリーヌによって撮影さ
れた家族旅行などのサビーヌの記録映像と現在の彼女の姿が
写し出されるが、その劇的とも言える変貌ぶりが、サンドリ
ーヌにこの作品を作らせた理由を明確に物語っている。
自閉症という病名からは、『レインマン』や、2006年12月に
紹介した『モーツァルトとクジラ』などの作品が思い浮かぶ
が、サビーヌの場合も以前はピアノに天分を発揮するなどし
ていたようだ。しかし、不適切な治療によってその人格が失
われてしまった。本作ではそれを直接告発してはいないが、
端々にその点に関する怒りが表わされている。
著名な女優が難病の家族を描くということでは、映画を観る
まではかなり売名的な部分も危惧した。しかしこの映像を目
の当りにすると、彼女がこれを描かなければならなかった心
情も理解できる。
実際、同じ病の患者にとっては以前の記録映像が残されてい
ることも希であろうし、それが実現できたのもサンドリーヌ
が女優であったことが大きい。そして彼女は、以前から妹の
ことを映画にしたいと考えていたそうだ。だがそれは、余り
にも過酷な現実を描くことになってしまった。
精神病の多くが、金目当ての精神病医によって適当に作り上
げられたものであることは、1999年に映画化された“Girl,
Interrupted”(十七歳のカルテ)などでも告発されたとこ
ろだが、勝手に作り上げた病気をさらに不適切な治療で悪化
させる。
もちろん自閉症が勝手に作り上げた病名でないことは確かだ
が、その病気の実体も判っていないのに、適当な「治療」を
繰り返して病状を悪化させる。そんな恐ろしい精神医療の現
状が明白にされている感じの作品でもあった。
『破片のきらめき』
東京八王子の精神病院平川病院で40年以上に渡って行われて
いる絵画教室の活動を追ったドキュメンタリー。
前日『彼女の名はサビーヌ』を観て、その翌日にこの作品を
観る巡り合わせとなったが、何とも複雑な気持ちにさせられ
た。一方で誤った治療が行われ、他方ではここに描かれるよ
うに素晴らしい成果が得られている。
文化の違いがそうさせると言うより、そこに携わる人のあり
方の要素が強いようには思えるが、その当たり外れでこうも
違う結末が生じるのも恐ろしい話だ。
ただし、本作ではその病の暗の部分があまり描かれないのは
仕方のない面もあるもので、その辺りで、事象としての感動
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11月02日(日)
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