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On the Production
by 井口健二
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■ナニワ金融道、七人の弔、メゾン・ド・ヒミコ、輝ける青春、世界、マイ・ファーザー
ろはまさに期待通りの作品だった。
結末は予想通りと言うか、まさにこれしかないのだが、この
場合に一番肝心なのは、この結末に持って行く過程の描き方
だろう。その点でこの脚本は見事にそれを解決している。こ
の脚本のうまさも気に入ったところだ。
各人の思いや思惑が交錯して、それでもこれしかない結末と
いうのが切なくもあり、これが、この映画の結末だけでは終
らない拡がりのようなものも感じさせてくれた。
子供たちの初々しい演技に対して、大人たちの泥くさい演技
も演出の方針だろうが、そのコントラストの付け方も良かっ
た。また、その間に入ったダンカンの無表情な演技も壺に填
っているし、最後のほっとしたような表情が、監督(脚本家)
本人の姿勢を表わしている感じもしてよかった。
『メゾン・ド・ヒミコ』
『ジョゼと虎と魚たち』の犬童一心監督と脚本家の渡辺あや
が再び組んだ作品。
と言っても、実は当初は大島弓子原作『つるばらつるばら』
の映画化が計画されていたが、製作費の高騰により挫折。そ
の替りに進められた企画だったが、さらに後にスタートした
『ジョゼ』が先行したのだそうで、本当はそれより先に練ら
れていたものだそうだ。
ということで、本作は大島作品の流れを引き継いでのゲイの
物語ということになる。
母子家庭に育ち、母親が死んでからは一人で生きてきた女性
のところに、若い男性が現れる。彼は彼女の父親の愛人だと
名乗り、死の床にいる父親に逢いに来るように要請する。し
かし幼い頃に母と自分を捨て、ゲイとなった父親を彼女は許
すことができない。
とは言え、結局彼女はその男性に説得され、父親が設立した
メゾン・ド・ヒミコと名付けられたゲイ専門の老人ホームで
日曜日だけの賄いのアルバイトをすることになる。そして、
父親との再会も果たすのだが…
その老人ホームには、老いて行き場の無いゲイたちが、行く
末の不安を抱えながら寄り添うように暮らしていた。そして
そのホームで、ゲイ特有の、あるいは一般にも通じるいろい
ろな事件が起って行く。
以前にも書いたと思うけれど、僕はゲイを描いた映画が基本
的に好きではない。別段、同性愛者を差別するつもりはない
し、その行為をとやかく言うつもりはないが、特に映画の場
合は、そうでない人が演技でしている感じが、嫌悪感につな
がっているような気もする。
僕の基本姿勢はそういうことであるが、しかしこの映画に関
しては、そういうことを超越して、見ていて感動させられる
作品に仕上がっていた。ある意味『ジョゼ』にも通じる、世
間から特別視されながらも懸命に生きている、そんな人々の
物語だ。
また本作では、観客の目として登場する柴咲コウ演じる主人
公の女性の描き方が、見事なメイクダウンでありながら嫌み
でなく、むしろ愛らしく描かれていて、その脚本、演出、メ
イク、演技の全ての面で素晴らしかった。
その彼女の存在のおかげで、この物語に部外者でありながら
すんなりと入って行ける、そんな脚本が特に見事だ。オダギ
リジョー、田中泯らが共演。なおプロローグのナレーション
を筒井康隆が務めていて、戦後の銀座ネオン街を語っている
のも面白かった。
マイノリティに光を当てる犬童=渡辺のコンビの作品には、
今後も注目したい。
『輝ける青春』“La meglio gioventu”
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06月14日(火)
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