ID:47402
ATFの戦争映画観戦記
by ATF
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■【File089】カチンの$Xのエニ′Fさん・・・【ネタバレ警報/中編】
第一次大戦時、独帝国海軍のUボートにより大きな損害を出していた英国は、ナチス・ドイツの再軍備後、再び独海軍の通商破壊攻撃(Uボート・通商破壊艦等)が自国にとって大きな脅威となる事を認識していました。その為、早い時期から独軍の発する暗号通信には細心の注意を払っていましたが、エニグマ暗号には手も足も出ない状況でした。しかしポーランドやフランスが知り得た暗号解読の糸口を基に、国家の総力を挙げてエニグマ暗号の解読に取り組みます。英国情報部は国内各地から人材・・・数学者、古典学者、言語学者、ケンブリッジやオックスフォードといった大学の教授や学生、美術研究家、チェスやトランプの名手、果てはクロスワードパズルのマニアや占い師まで・・・英国の様々な階層、職種、分野から多くの優秀な人々が、ロンドン郊外バッキンガムシャーにあるブレッチェリー・パーク(現在は博物館)に掻き集められました。ここは30エーカーの広大な敷地を利用して、暗号解読の為の様々な作業施設(研究室、分析室、電算室、発電室、居住施設、防諜施設等)が設置され、最盛時では一万名近くの人員が、暗号解読に関する作業に従事していました。また英国内や英連邦・同盟国の各地に無線傍受施設を設置、24時間体制で独軍の通信を始め枢軸側、連合国側のあらゆる種類の膨大な通信を傍受します。ドイツとの戦いに国家の命運が賭かっていた英国は、莫大な人的・物的資源を投入し、国家的事業としてエニグマ暗号の解読に取り組んだのでした。しかしポーランドで発見された暗号解読の糸口(暗号文章の最初の何文字かを必ず二回繰り返して送信する規則性)は、やがて独側の機密保持の強化により役立たなくなり、英軍情報部を慌てさせます。しかしこの時、英国にとって将に救世主と言える人物が登場します。その人物・・・ケンブリッジ大学の若き数学教授アラン・チューリング・・・彼は、エニグマ暗号機において入力された文字が、決して同じ文字に置換される事がない法則に着目、傍受された数十種の暗号文に必ず含まれていた同一単語(この時は気象情報暗号の中の天候や緯度・軽度等)を探し出し、それを別の暗号文章に当てはめ、地道に暗号変換のパターンを割り出していく、と言う理論を組み立てます。そしてポーランドで製作された暗号解読機「ボンブ」を改良した総当り式電子暗号解読機を製作・・・こうしてエニグマ暗号解読の手掛かりが再び発見されました。しかしエニグマ暗号と大きくひとまとめにしていますが、例えば独陸軍、海軍、空軍、政府によって使用される暗号のコードブックは異なっており、独陸軍暗号の解読方式が海軍や空軍の暗号解読には適用出来ない・・・という様な事態が度々発生していました。そこで映画や小説に描かれている様に、連合国の諜報部員や特殊作戦執行部隊によって、実際のエニグマ暗号機本体やコードブックの秘密奪取作戦、独海軍の船舶やUボートの拿捕、欺瞞電文の送信によるデータ収集も暗号解読作業と並行して行われ、戦争全期を通じて暗号解読の糸口を得る努力が続けられます。『U-571(2000)』で描かれたエピソードは、将にコレです・・・登場したのは米軍でしたが・・・?戦争末期、独軍がエニグマ暗号を改良した新しい暗号機「ゲハイムシュライバー」を開発すると、いち早くその情報を掴んだ英国情報部も、暗号解読機「ボンブ」を改良・発展させた「コロッサス」更には改良型の「コロッサスU」という電子式二進法暗号解読機を開発し、独軍の暗号解読は続けられます。驚く事に、この暗号解読機「コロッサスU」は1970年代まで最高軍事機密で、その存在は一般公開されていませんでした・・・これは言い換えれば当時の暗号も、基本的には二次戦時に使用されていた暗号の原理を使用しており、暗号解読の原理も同様であった・・・と言う理由だと思われます。結果的に英国はエニグマ暗号の解読成功によって多くの戦果を挙げました・・・特にUボートの待ち伏せ位置情報は、船団攻撃によって餓死寸前まで追い込まれた英国にとっては最高の戦果でした・・・しかし、このエニグマ暗号の解読には隠され続けた裏話があります。エニグマ暗号の解読成功は、英国とって最も秘匿しなければならない超極秘事項・・・暗号が解読されている事実が独軍に察知されれば、暗号コードが変更されてしまい、解読にまた最初から労力を注ぎ込まねばならない・・・その為、英軍はエニグマ暗号を解読した情報により得た勝利を、偶然の事象による勝利と発表したり、諜報部員による戦果と公表したり、更には爆撃目標となっていた都市の住民に非難勧告を行わず、結果的に見殺し(コベントリー爆撃)にし、独軍の目を欺き続けました。また独軍側にも「エニグマ暗号は難攻不落」という神話・・・過信が根強くあった事も、結果的に連合国側の勝利に寄与したと言えます。エニグマ暗号の解読に貢献したアラン・チューリングは、前述のような機密保持の観点から、戦後も公の場で評価される事はありませんでした。彼は1952年に突然逮捕され、国家の最高レベルの秘密情報に携わる資格を失います。その理由は、彼の「同性愛嗜好」が原因でした・・・その後、彼は戦時中の国家への貢献を考慮され保釈されますが、性的欲求を抑制する為のエストロゲン(ホルモン)注射を受ける事を義務付けられます。1954年、第二次大戦の連合国最高の殊勲者であったアラン・チューリングは、猛毒性のシアン化合物を注入したリンゴを囓り、自らの命を断ち悲劇的な最後を遂げるのでした。
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06月04日(水)
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