ID:47402
ATFの戦争映画観戦記
by ATF
[455599hit]

■【File086】おんな≠ヘ乗せ・・・てるじゃん!潜水艦【後編Vol.1】
もはや敗戦が明らかになるつつあった昭和二十年初夏。多くの日本潜水艦が連合国側の攻撃で失われていく中、艦長河本少佐以下熟練の乗組員たちによって数々の武勲に輝く伊五七潜に新たな任務が下る。それは日本を滅亡の危機から救うべく、連合国と少しでも有利な条件で講和を結ぶ為、特使として某国の外交官ベルジュとその娘ミレーヌを、太西洋のアフリカ北西沖スペイン領カナリー諸島まで護送する任務だった。先任将校志村大尉など一部幹部士官は、この任務を承服せず、今までの様に艦内をひとつに纏められず、数々の試練をチームワークで切り抜けてきた伊五七潜にとって前途多難な任務だった。また潜水艦は女人禁制、何か騒ぎが起こりそうな事も艦長の悩みの種・・・。しかも長距離航海用に燃料搭載量を増やす為、魚雷搭載数は発射管に装填した6本だけ・・・。そんな状況下でペナンを出航し一路カナリー諸島を目指す伊五七潜。うら若き女性しかも外国人の同乗に色めき立つ乗組員達・・・女性を乗せたが為の騒ぎはこれくらいか・・・そう言えば体を壊したミレーヌの為に氷≠作るエピソードがあったなぁ・・・あれで燃料余分に喰ったか・・・。行く手に待ち構える連合国の猛攻撃。生と死の錯綜する戦場の荒波を越え伊五七潜は進む・・・!幾度もの困難と敵駆逐艦の脅威を乗り越え、司令部との連絡を断たれながら、そして尊い犠牲を出しながら、遂に伊五七潜は希望峰を周り、大西洋カナリー諸島沖まで辿り着くが、既にポツダム宣言は発表され・・・時既に遅し。民間人であるベルジュと娘ミレーヌを巻き込むに忍びなく退艦させ英駆逐艦に避難させた後、艦長河本少佐は最後の命令を下す・・・「伊五七潜は降伏しない」(ワーテルローの仏軍近衛兵みたいだ・・・)身体を清め第二種軍装を着用した全乗組員たち・・・伊五七潜は待ち構える英駆逐艦群へと突撃を敢行する・・・。もはや日本の敗戦は逃れられない状況下で、こんな特攻のような勝ち目のない行動を起こす事はないだろう・・・と思えるのですが、彼ら・・・当時の日本帝国軍人たちにとっては、これが唯一の筋を通す道だったのでしょうか・・・。この作品は、監督/松林宗恵、特撮/円谷英二による邦画戦争映画を代表する作品と言えます。自衛隊の全面協力により、当時海上自衛隊に唯一所属していた潜水艦くろしおと米軍貸与の自衛艦を使用した撮影も見どころのひとつです。監督の松林宗恵氏は実際に海軍第三期予備学生を経て昭和十九年海軍少尉に任官、陸戦隊小隊長として終戦を迎えた経歴を持ち、また実家が島根県の浄土真宗の寺院だった為、僧籍をも持つ異色監督。他に「人間魚雷回天」「太平洋の嵐」「連合艦隊」「世界大戦争」を監督している邦画戦争映画界でも馴染みの深いヒューマンな演出の冴える監督です。艦内で鼠を捕まえ喜ぶ主計科水兵や垢取り競争の景品が貴重な洗面器一杯の水など、挿入されたエピソードも他の邦画戦争映画には余り見られません。またモノクロ作品なのですが、特撮監督の円谷英二氏は、特撮場面の撮影に当時まだ高価なカラーフィルムをふんだんに使用・・・カラーフィルムでモノクロ撮影した時の高い解像度を利用したとか・・・そんな貴重なカラーフィルムを使用した特撮部分なのだが、松林監督は3シーン程編集段階でカットして円谷氏を怒らせたとか。この作品の後に邦画戦争映画の大作が次々に製作・公開された為、その陰に隠れてしまった感がありますが、一見どころか十見の価値ある将に邦画の「Uボート」と言える作品です。

さて女性を乗せた潜水艦≠フお話「後編Vol.1」は如何でしたでしょうか・・・。次回は、まだまだある女性を乗せた潜水艦≠フお話「後編Vol.2」・・・今回はどちらかと言えばお客として女性を乗せたお話でしたが、次回は一味違った女性が活躍するお話をご紹介しましょう・・・【続く】

05月04日(日)
[1]過去を読む
[2]未来を読む
[3]目次へ

[4]エンピツに戻る