ID:47402
ATFの戦争映画観戦記
by ATF
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■【File124】スペイン内戦勃発70周年・・・誰がために鐘は鳴るなり豆戦車B
映画『誰がために鐘は鳴る』一番の見せ場は、何と言ってもクライマックスの鉄橋爆破シーンですな。しかし、この鉄橋何処にあったんでしょうね。原作の記述によれば舞台となったのは、スペインのほぼ中央にある首都マドリッドの北西約60マイルに連なるグァダラマラ山系の中にある一渓谷に架かる鉄橋という設定で、時期的には1937年5月の最後の週の土曜午後から翌週火曜の昼までの4日間・・・ほんの70時間余りの間の出来事です。登場人物はアメリカ人の義勇兵ロバート・ジョーダンと人民戦線側の民兵ゲリラたち・・・ゲリラと言っても、元々この地域に住んでいた農民やジプシーたちです。スペイン内戦と言うと人民戦線側の主力だった労働者階級出身民兵や国際義勇旅団の外国人義勇兵が有名ですが、この『誰がために鐘は鳴る』には、主人公のロバート・ジョーダン以外には、これら労働者階級や外国人出身兵士は、主要登場人物としては描かれていません。実は1937年5月にバルセロナにおいて、人民戦線側の主要な勢力であった急進的労働組合であり労働者自治(アナルコ・サンディカリズム)革命を志向するアナキスト(無政府主義)系全国労働連合(CNT・FAI)及び反スターリン系マルクス主義統一労働党(POUM)と、コミンテルン(共産主義インターナショナル/国際共産党)の指導下にあったスペイン共産党(親スターリン派)の民兵が衝突・・・激しい市街戦が繰り広げられ500人近い死者と1000人もの負傷者を出しています。結局この後人民戦線側の主導権を握ったスペイン共産党は、対立する他組織勢力への粛清を繰り広げてます・・・スペイン内戦での人民戦線側の敗因のひとつに、人民戦線内部での権力闘争が上げられますが、まぁ旧ソ連が絡んだ為に自滅したってとこでしょうね。原作者のヘミングウェイもこんな状況に失望して、作品中の人民戦線側の主要登場人物としては描かなかったのかもしれません。世界各地から反ファシズムの理想に燃えて集った義勇兵たちによる国際義勇旅団も、結局は1938年11月に旧ソ連の圧力によって解散させられています。そしてこれら元義勇兵たちは、祖国に帰国した後、西欧では赤狩り°激\連ではトロッキー派狩り≠ノ遭うなど迫害されたそうです。全く踏んだり蹴ったりです・・・やっぱスターリンが絡むと碌な事がない様です。この辺の事情は、前述のケン・ローチ監督による『大地と自由(LAND AND FREEDOM/1995)』の中で詳しく描かれています。さて閑話休題・・・クライマックスの鉄橋爆破シーンですが、この鉄橋はマドリッド方面への重要な交通の要衝だった様です(でも名無し・・・)。この鉄橋がなくなると重火器や物資輸送が困難になるのは明白です。でも歩兵や騎兵は、鉄橋が無くても渡河は可能な様ですな・・・映画のラストシーンを観れば解るとおりです。映画の筋からするとロバート・ジョーダンと人民戦線側の民兵ゲリラによる、この名もない鉄橋の爆破作戦は、人民戦線側の総攻撃(反抗?)作戦に呼応した作戦で、ファシスト叛乱軍部隊が渡橋する前に是非とも爆破しなければなりませんでした。と言う事は登場するファシスト叛乱軍部隊は、人民戦線側の作戦に対して大いなる脅威だったと思われます。このファシスト叛乱軍部隊の渡橋によって、人民戦線側の側面或いは背後が脅かされる危険が高かったのでしょう。したがって鉄橋爆破は、人民戦線側にとって極めて重要な作戦でした。しかし、この作戦に人民戦線中央から派遣されたのは、僅かにロバート・ジョーダン一人で、残りは数名の現地の民兵ゲリラたちでしかありません。それに対しファシスト叛乱軍側も、この戦略的要衝のはずの鉄橋守備(警備)には、下士官指揮下の分隊程度の兵力しか配置していません。これなら鉄橋爆破は難なく可能なはずでした・・・しかし前述の様にファシスト叛乱軍部隊・・・戦車を装備し歩兵もトラックに乗車した機械化部隊で、またかなりの数の騎兵をも有する強力な部隊が鉄橋の間近まで迫って来ていたのです。こうしてロバート・ジョーダンたち民兵ゲリラとファシスト叛乱軍機械化部隊との息詰まる鉄橋の攻防が繰り広げられる訳です。戦車が渡橋する前に鉄橋を爆破する・・・って設定は、後の『レマゲン鉄橋』や『遠すぎた橋』など橋が重要なキャラクターとして登場する定番戦争映画の将に先駆的な作品とも言えますね。


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07月19日(水)
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